宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 80, 2014

一般演題

24. 国際宇宙ステーションにおける軌道上診断システムの機能検証

相羽 達弥1,2,山田 深1,2,石田 暁1, 2,大島 博1,2,向井 千秋1,2

1(独)宇宙航空研究開発機構 宇宙医学生物学研究室
2(独)宇宙航空研究開発機構 宇宙医学研究センター

Evaluation of Onboard Diagnostic Kit (ODK) for the ISS

Tatsuya Aiba1,2, Shin Yamada1,2, Satoru Ishida1,2, Hiroshi Ohshima1,2, Chiaki Mukai1,2

1Space Biomedical Research Office, Japan Aerospace Exploration Agency
2Center for Applied Space Medicine and Human Research, Japan Aerospace Exploration Agency

 長期宇宙滞在における宇宙飛行士の健康管理は,地上で支援する専任医師や専門家が地上から遠隔診断をおこない適切な処置を施すことに加え,宇宙飛行士自身が自己の健康状態を把握できることが重要である。(独)宇宙航空研究開発機構は,遠隔医療に関わる宇宙医学実験としてこれまでにスペースシャトルでの赤外線送受信を用いた生体モニター(心電図,脈拍,呼吸数),国際宇宙ステーション(International Space Station:ISS)でのハイビジョンカメラを用いた皮膚の画像診断,小型ホルター心電計の軌道上機能検証などをおこなってきた。しかしながら,これらの研究は地上からの医学支援を目的としていたことから,取得したデータは軌道上で解析されることなく逐次地上にダウンリンクされ,宇宙飛行士自身での利用は想定されていなかった。
 我々は医師の資格を持たない宇宙飛行士自身が自己の健康状態を把握し,地上の専任医師と健康管理情報を共有することが可能な軌道上診断システム(Onboard Diagnostic Kit:ODK)を開発し,ISSにおける機能検証を実施した。ODKは複数の小型高性能医療機器(電子聴診器,HD Webカメラ,パルスオキシメータ,ホルター心電計,電子血圧計,体温計,ハンドヘルド式筋力計,腕時計型活動量計)で構成され,取得した計測値と生波形を表示するとともに,それらを電子カルテとしても利用できるデータベース上で統合管理し,簡易的な分析までを可能としている。また,「きぼう」日本実験棟にある衛星間通信システムを利用し,筑波宇宙センターとリアルタイムによる双方向通信が可能であることも特徴となっている。
 2011年から2012年にかけて,2回に分けてODKをISSに搭載し,その間にISSに長期滞在した宇宙飛行士2名 (2011年は医師の資格を持つ宇宙飛行士1名,2012年は医師の資格を持たない宇宙飛行士1名)が参加し,ODKを用いて自らの医学データを取得した。また,両飛行士を対象として軌道上でのODKの操作性,実用性についての質問紙調査をおこなった。地上では医師1名が機能検証に立ち会い,総合的な評価をおこなった。
 医師の資格を持つ宇宙飛行士は,各医療機器の操作性,実用性については良好であるとした上で,電子聴診器,ホルター心電計,簡易脳波計の解析結果の表示については「データの解釈が医師でないクルーには難しい。今後の発展や活用を考慮して,データの標準値や解析結果のパラメータの意味などを表示可能にした方がよい。」との回答であった。医師の資格を持たない宇宙飛行士からは生波形の解釈は難しいことが指摘されたが,解析結果・pラメータの表示を追加した改修については,良好な回答が得られた。宇宙飛行士自らの手によって解析に耐えうる医学データを取得できたこと,それらが軌道上での健康状態のチェックに役立つものであること,さらには地上と軌道上で共有したデータが飛行中の医学管理に活用できることが,地上の医師によって確認された。
 本研究にご協力いただきました宇宙飛行士,JAXA宇宙環境利用センターの皆様に厚く御礼申し上げます。