宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 77, 2014

一般演題

21. わが国の航空身体検査証明制度の現況と将来

燗c 邦夫1,2,五味 秀穂3,田村 忠司4,ヌ田 成雄5,宮川 芳宏2,藤田 真敬1,5,辻本 由希子5,小西 透5,稲田 真5,立花 正一1

1防衛医科大学校防衛医学研究センター異常環境衛生研究部門
2国土交通省航空局
3航空医学研究センター
4全日本空輸乗員健康管理センター
5航空自衛隊航空医学実験隊

The current state and future of the aviation medical certificate system in Japan

Kunio Takada1,2, Hideho Gomi3, Tadashi Tamura4, Naruo Kuwada5, Yoshihiro Miyagawa2, Masanori Fujita1,5, Yukiko Fujimoto5, Toru Konishi5, Makoto Inada5, Shoichi Tachibana1

1Division of Environmental Medicine, National Defense Medical Collage Research Institute
2Civil Aviation Bureau, Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism
3Japan Aeromedical Research Center
4Flight Crew Medical Administration Office, All Nippon Airways
5Japan Air Self-Defense Force Aeromedical Laboratory

 「航空医学適性(以下「適性」という)」とは,航空業務を実施するために必要な心身の状態が,飛行のあらゆる状況下で安全に飛行するために必要な水準以上であり,有効期間中維持していると予想される状態を指し,ここでは,その場合を「適性がある」と表記する。一方,それでない場合を「適性を欠く」と表記する。わが国の民間航空において,航空身体検査基準に基づき「適合」と判定された場合は適性がある状態である。一方,「不適合」と判定された場合は航空業務が出来ない。ただし,航空業務を希望する場合は,ウェーバー(Waiver)審査にて適性判定を行うことができ,合格の場合は適性があり,不合格の場合は適性を欠くこととなる。なお,同様な制度は自衛隊にも存在する。
 現在のわが国は,明確な適性基準が設けられておらず,合わせて,民間航空にも自衛隊にも航空医学研究者が不足している状態である。適性基準が明確でないとウェーバー審査判定の公平性を保つことが出来ない。加えて,航空医学研究者の不足により明確な適性基準の作成すらできない状況である。
 以上の問題点を踏まえ,戦闘機を除く低G機種の操縦士は民間航空と自衛隊で共通の適性基準で運用が可能と考え,民間航空と自衛隊の航空医学研究者の共同作業による明確な適性基準を設ける方法の提言を行いたい。
 明確な適性基準は,主として世界的にコンセンサスのある1%・求[ルに基づくとよいと考えられる。1%ルールとは,操縦士が機能喪失を起こすような疾患を持っていた場合,1年間に機能喪失(incapacitation)を起こす確率(年間機能喪失率)が1%以下であれば適性があると判定できるルールである。ここでは,病態を「判定時の年間機能喪失率」「病態の継時的な変化」に基づいて,適性区分1(年間機能喪失率が1%未満),2A(0.1%以上1%以下で,軽快する病態),2B(0.1%以上1%以下で,悪化する病態),3A(1%より多く,軽快する病態)及び3B(1%より多く,悪化する病態)に分類し,航空医学研究者は専門とする分野の疾患の病態を適性区分に基づいて分類し,判定者は適性区分に基づいて判定を行う。初回判定(操縦士候補者の適性判定)の場合,適性区分2B又は3Bに該当する場合,継続判定(現役操縦士の適性判定)は3Bに該当する場合,恒久的に適性を欠くと判定する。
 この方法により,@ 明確な適性基準が定義されることにより,判定の公平性を保つことができ,A 数少ない航空医学研究者の人材を活用することができることから,将来はこのような方法の確立を目指すべきと考える。