宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 73, 2014

一般演題

17.  加速度(+Gz)が高血圧自然発症ラットの脳レベル血圧に与える作用と降圧剤投与による影響

丸山 聡1,高澤 千智1,藤田 真敬1,西田 育弘2

1航空自衛隊 航空医学実験隊 第 2 部
2防衛医科大学校 生理学講座

Nifedipine does not affect cerebral blood perfusion of spontaneously hypertensive rats during +Gz exposure

Satoshi Maruyama1, Chisato Takazawa1, Masanori Fujita1, Yasuhiro Nishida2

1Second Division, Aeromedical Laboratory, Japan Air Self-Defense Force
2Department of Physiology, National Defense Medical College

 【背景】 パイロットの高血圧症に対しては一般の治療指針と同様またはそれ以上の治療と管理が適応されている。高血圧治療薬の一つであるカルシウム拮抗薬は,血管平滑筋を弛緩させ末梢血管抵抗を減じたり,運動負荷時の脈拍上昇を抑制する作用から加速度(+Gz)負荷のかかるパイロットには慎重に投与される。しかし,カルシウム拮抗薬のG負荷時の循環動態へ与える影響についてはほとんど研究されていない。そこで今回我々は,カルシウム拮抗薬の1つであるニフェジピンを高血圧ラットに内服させ,+Gz負荷が脳循環に与える影響を観察した。
 【方法】 実験には高血圧症のラットである高血圧自然発症ラット(SHR)とウィスター京都ラット(WKY)(10週齢,雄性)を用いた。それぞれのラットに通常の餌または0.1%ニフェジピン含有餌を2週間にわたり投与した。非治療群(non-treatment group)として通常飼料を与えた各ラットをnSHR及びnWKY,治療群(treatment group)としてニフェジピン含有飼料を与えたラットをtSHR及びtWKYとした。麻酔下のラットを小動物用加速度負荷装置(トミー精工)を用い,オンセットレート1.0 G/secで+4.5 Gzに到達させ,+4.5 Gzの負荷に5秒間暴露した。この間の脳レベル血圧(Arterial pressure at the level of the brain:APLB)をカテーテル留置により,心拍数を心電極により測定した。
 【結果】 nSHRとtSHRの麻酔下平常時のAPLBを比較すると,tSHRが有意に低かったが(P<0.05),どちらもnWKYより高かった(P<0.01)(nSHR vs. tSHR vs. nWKY= 147.4±10.2 vs. 122.6±10.1 vs. 99.2±11.5 mmHg;mean±SD)。+4.5 Gz暴露時のAPLBの低下量を比較すると,nSHRの低下がtSHRとnWKYに比べて有意に大きかったが(P<0.01),tSHRとnWKYの低下量は同程度であった(冢SHR vs. 冲SHR vs. 冢WKY=147.6±13.1 vs. 117.2±25.8 vs. 106.2±12.0 mmHg;mean±SD)。各群間の心拍数に差は認められなかった。またnWKYとtWKYのAPLB変化に差は認められなかった。
 【考察】 強い+Gz負荷がかかるパイロットにとって,脳循環を維持することは重要であり,あらかじめ血圧が高いことが有効とも考えられる。しかし,nSHRは+Gz負荷時のAPLB低下量が大きく,その値がnWKYと変わらないため,本動物実験からは高血圧であることが耐G性の観点から有利ではないことが示唆された。また+Gz負荷中によるtSHRのAPLB低下量はnWKYと比べて差が認められず,tWKYのAPLB低下量もnWKYと差がなかったことから,カルシウム拮抗薬であるニフェジピンによる高血圧治療は+Gz負荷中・フ脳血圧維持に悪影響を与えないことが示唆された。