宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 71, 2014

一般演題

15. パラボリック飛行時の体及び脳循環動態

小河 繁彦

東洋大学理工学部 生体医学工学科

Central arterial pressure and cerebral blood flow during parabolic flight in humans

Shigehiko Ogoh

Department of Biomedical Engineering, Toyo University

 【緒言】 先行研究において,定常状態における中心血液量の変化や心拍出量の変化が脳血流量に影響を及ぼすことが報告されている。しかしながら,ヒトにおけるパラボリック飛行時など急性の中心血液量変化が脳循環動態に及ぼす影響については明らかにされていない。本研究では,パラボリック飛行中の急性微小重力の脳循環動態及び体循環動態を分析した。
 【方法】 本研究は,欧州宇宙機関(ESA)とフランス国立宇宙研究センター(CNES)によるパラボリック飛行実験中に行われた。被験者は,座位姿勢で身体をベルトにより固定された。測定項目は,心拍数,脳血流量の指標として中大脳動脈血流速度,動脈血圧,中心血液量の指標として胸部インピーダンス及び呼気終末二酸化炭素分圧であった。
 【結果と考察】 微小重力時,中心血液量は増加するにもかかわらず平均動脈血圧は低下した。一方,中心及び末梢における脈圧は増加し,これらの増加は心拍数(r=−0.888, P<0.0001)と末梢血管抵抗(r=0.620, P<0.05)の変化に有意な相関関係を示した。このことは,心肺圧受容器反射に加え,動脈圧受容器反射により急激な末梢血管拡張が惹起されていることを示唆している。また脳血流量の指標である,中大脳動脈血流速度には,急激な中心血液量の増加においても有意な変化は観察されなかった。これらの結果から,微小重力時,動脈及び心·肺圧受容器反射により素早く総末梢血管コンダクタンス増加を引き起こし,微小重力により起こる中心血液量の増加による脳への過剰な血流を防ぐ要因になることが示された。