14.　下肢陰圧負荷時の脳血流反応 | The responses of brain blood flow during lower body negative pressure

一般演題

14.　下肢陰圧負荷時の脳血流反応

芝﨑　学¹，佐藤　耕平²，小河　繁彦³

¹奈良女子大学　研究院　生活環境科学系
²日本女子体育大学　基礎体力研究所
³東洋大学　理工学部

The responses of brain blood flow during lower body negative pressure

Manabu Shibasaki¹, Kohei Sato², Shigehiko Ogoh³

¹Department of Environmental Health, Nara Women's University
²Research Institute of Physical Fitness, Japan Women's College of Physical Education
³Department of Biomedical Engineering, Toyo University

　【緒言】　長期間の微小重力暴露後にみられる起立耐性低下の一因として体液シフトによる心循環系の低下があげられる。暑熱負荷暴露による高体温時においても，体液シフトによる起立耐性低下が認められる。失神徴候の症状として，血圧や心拍数の低下と同様に脳血流の低下が認められ，高体温時においても顕著な脳血流の低下が観察されている。測定の利便性から，これまでの脳血流に関する研究では，経頭蓋超音波ドップラにより測定した中大脳動脈の平均血流速度に関する報告が主であった。脳へ血液を供給するルートは頸動脈だけでなく，椎骨動脈からも供給される。我々のこれまでの研究成果により，中大脳動脈へ血液を供給する内頸動脈と椎骨動脈の血流調節反応は運動，特に高負荷時の運動や，暑熱ストレスで異なることが明らかとなった。そこで，本研究では起立性ストレス時においても，血流量調節が脳血管により異なるのではないかと考え，多段階の起立性ストレス時の内頸動脈および椎骨動脈の血流量を同時測定した。
　【方法】　健康な成人（男性4名，女性6名:21±2歳）を被験者とし，下肢陰圧（LBNP）装置を用いて，3段階（20 mmHg, 35 mmHg, 50 mmHg）の異なる起立性ストレスをそれぞれ10分間負荷した。負荷強度の異なる3試行は無作為に行い，各試行間において少なくとも40分以上の休息をとった。心電図，血圧および呼気ガス（breath by breath法）は連続測定し，2台の超音波ドップラ法（Vivid-e）を用いて内頸動脈（ICA）および椎骨動脈（VA）の血管径と平均血流速度を間欠的に同時計測し，それらの積から血流量を算出した。それぞれのデータはLBNP負荷直前および負荷終了直前の1分間の平均および標準誤差で示した。
　【結果と考察】　心拍数はLBNPの負荷強度に依存して明らかに増加し，心拍数の変化度はLBNPの強度に依存した。一方，収縮期血圧および脈圧はLBNPによる低下が認められたが，拡張期および平均道血圧はほとんど変化しなかった。心拍数および血圧値において失神の兆候は観察されなかった。呼気終末二酸化炭酸分圧は20 mmHgと35 mmHgでは変化しなかったが，50 mmHgでは明らかに低下した（37±1 to 35±1 mmHg, P=0.02）。ICA血流量はLBNP強度に依存して低下し，50 mmHgでは安静時よりも明らかに低下した（411±35 vs. 311±40 ml/min, P=0.04）。しかし，VA血流量は3段階のLBNPによる影響は認められなかった。これらの結果より，ICA血流量の変化と比較して，VA血流量の変化がより起立性耐性に関連している可能性が示唆された。