宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 68, 2014

一般演題

12.前庭電気刺激周波数と心拍変動の関係

田中 邦彦,間野 忠明

岐阜医療科学大学 保健科学部 放射線技術学科

Relationship between frequency of vestibular stimulation and heart rate variability

Kunihiko Tanaka, Tadaaki Mano

Department of Radiological Technology, Gifu University of Medical Science

 内耳前庭系は姿勢調節をはじめとした自律神経系を介した循環調節にも重要な役割を果たしている。これまでに我々はランダムな前庭電気刺激が心臓副交感神経活動の指標である心拍変動の高周波成分(High Frequency Component;以下HF成分)を増加させること,この増加と起立時血圧変化が有意に相関することを示した。本邦の鉄道会社が開発した山間部を高速で走行する車両,いわゆる振り子車両は,乗客のみならず乗務員においても動揺病を引き起こすことが知られている。同じ路線において一般車両では1 Hzから5 Hzにかけて広く振動が分布するのに比較して,振り子電車では0.75 Hz付近に大きな振動を観測する。動揺病は平衡感覚,視覚,体性感覚等の姿勢認識機能の不一致によって引き起こされるといわれることが,この付近の前庭刺激が特に動揺病を引き起こしやすいのではないかと考え実験を行った。ここでは6段階の周波数・h激によって自律神経活動の指標である心拍変動がいかに変化するかを求めた。健康男女12人の動脈血圧と心電図を計測しつつ安静仰臥位5分ののち0.5,0.75,1,2,5,10 Hzの前庭電気刺激をランダムに各5分与えたときの心拍変動を解析した。HF成分は,いずれの周波数でも増加傾向にあったが1 Hzでの刺激時に最も大きく増加した。同様に5 Hzでの刺激時にも有意に増加した。また,この変化は起立時血圧変化に有意に相関した。このことから,1 Hz,5 Hz近傍での体動時に自律神経変調を起こしやすいのではないかと考えられた。