宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 67, 2014

一般演題

11. 短半径遠心機による過重力負荷の影響

森田 啓之1,小畑 孝二1,芝 大2,白川 正輝2

1岐阜大学大学院医学系研究科 生理学
2JAXA

Impact of hypergravity induced by a short-arm centrifuge in mice

Hironobu Morita1, Koji Obata1, Dai Shiba2, Masaki Shirakawa2

1Department of Physiology, Gifu University Graduate School of Medicine
2Space Environment Utilization Center, Human Spaceflight Mission Directorate, Japan Aerospace Exploration Agency

 微小重力の影響を調べる動物実験の対照群として,地上の1 g環境で飼育した動物が用いられてきた。しかし,これでは打上·回収に伴うストレス,宇宙船内の環境,宇宙放射線等の微小重力以外の影響を除外することが出来ない。JAXAは2016年実施予定のマウス実験において,国際宇宙ステーション内に設置する遠心機内(1 g・ツ境)で飼育したマウスを対照群として用いることを計画している。この遠心機は遠心半径が15 cmの短半径となる予定である。ステーション内に設置した短半径遠心機は,植物や培養細胞を用いた研究では使用されてきたが,マウスを用いた研究は無い。半径が短くなれば,飼育ケージ内の重力分布差が大きくなり,マウスに何らかの影響を与える可能性がある。本研究では,短半径(15 cm)と長半径(150 cm)の遠心機内でマウスを2-4週間飼育し,体重,摂餌量,脳内Fos発現を調べ,短半径遠心機の実用性を検討した。
 短半径遠心機で77 rpmで回転させると1 gの遠心力が得られる。宇宙では,この1 gがマウスの背−腹方向にかかる。もし,マウスが立ち上がりその頭部が床から5 cm高いところに位置すると頭部にかかる遠心力は0.66 gになる。この効果は長半径遠心機では無視できる程度である(0.97 g)。地上では,地球の1 gと遠心力の合成ベクトルである1.4 gが背−腹方向にかかる。この状態でマウスを飼育すると,摂餌量が一時的に減少し,それに伴って体重が減少する。4週間後には1 g飼育群と比べ1.5 g程度の体重減少がみられたが,短半径と長半径の間で摂餌量,体重変化に差はなかった。1.4 g負荷による体重減少は前庭破壊することにより完全にみられなかったことから,前庭系を介して引き起こされたことが分かる。また,過重力負荷により孤束核,前庭神経核,室傍核,視索上核等に有意なFosの発現がみられる。この発現にも短半径と長半径の間で差はなく,前庭破壊で発現は完全に抑制された。
 以上の結果より,短半径遠心機は,長半径遠心機と比較して飼育ケージ内の重力勾配が大きいものの,過重力に対するマウスの応答(摂餌量,体重変化,中枢でのFos発現)は長·短による差はなく,十分マウスの飼育に使用できるものであることが分かった。この遠心機を使い,純粋な微小重力の影響が検討できるものと思われる。