宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 64, 2014

一般演題

8.耳管機能検査を用いたスキューバダイバー患者のダイビング再開判定について

北島 尚治1,2,北島 明美1,3,北島 清治1

1北島耳鼻咽喉科医院
2東京医科大学 耳鼻咽喉科
3聖マリアンナ医科大学 耳鼻咽喉科

Criteria for resuming scuba diving for divers who experience diving accidents

Naoharu Kitajima1,2, Akemi Sugita-Kitajima1,3, Seiji Kitajima1

1Kitajima ENT Clinic
2Department of Otolaryngology, Tokyo Medical University
3Department of Otolaryngology, St. Marianna University School of Medicine

 【はじめに】 近年,海洋スポーツの普及に伴い,耳管機能障害による耳抜き不良とそれに伴う耳痛やめまいなどの耳症状を訴えるダイバー患者が増加傾向にある。陸上で普段の生活をする分には問題が現れにくいが,急激な水圧変化を伴うスキューバダイビングの環境下では耳管機能障害が顕著に現れる場合が多い。しかし治療後のダイビング再開判定の指標となるデータは乏しく苦慮することになる。当院では耳管機能障害の改善を認めたダイバー患者に対して再開判定目的に試験的な制限されたダイビング(トライアルダイビング)をすすめており,耳管機能の改善とダイビングの結果に興味深い関連性を確認できたので報告する。
 【症例と方法】 症例は耳症状を訴えたダイバー患者32例(男性9例·女性23例;38.8±12.2歳)である。平均ダイビング本数は89.3±125.8本であった。対象疾患は中耳気圧外傷のみにとどめ内耳気圧外傷を伴う症例は除外した。初診以降,定期的に耳管機能検査を施行した。耳管機能検査には音響法とインピーダンス法を用いた。耳管機能改善は,各検査数値およびコンプライアンス波形の改善をもって評価した。全患者に対し,治療薬には抗アレルギー薬(ロラタジンおよびモンテルカスト)と副腎皮質ステロイド点鼻薬(フルチカゾンプロピオン酸エステル)を使用した。耳管機能が改善し初診時に自覚していた耳症状が消失した場合,ダイビング時の注意点などを十分指導しトライアルダイビングをすすめた。
 【結果】 ダイバー患者全例において耳管狭窄症を認め,耳管開放症は認めなかった。アレルギー性鼻炎は82%で認められ,その全例で十分な鼻炎対策を行わずにダイビングを行っていた。トライアルダイビングの結果は耳管機能の改善につれて良好となるが,特にインピーダンス法のコンプライアンス波形が改善することが重要であった。
 【考察】 今回の結果からダイビング再開の指標として,耳管機能検査,特にインピーダンス法のコンプライアンス波形の改善が重要と思われたが,検査結果のみならず,耳抜き時の過剰加圧や急潜降や急浮上を行わず,鼻炎対策や基礎疾患の治療,体調管理を怠ることなく,感冒罹患時にはダイビングを中止する,1本目のダイビング中に異常を感じたら2本目は潜らない等,無理をしない「安全なダイビング」を心がけるよう指導することでダイバー患者の中耳·内耳トラブルを予防できると考えた。(宇宙航空環境医学 50(3) 37-44 2013)