宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 63, 2014

一般演題

7. 振子様OVARを用いた半規管麻痺患者の前庭機能評価

北島 明美,肥塚 泉

聖マリアンナ医科大学 耳鼻咽喉科

Evaluation of the vestibular function using sinusoidal OVAR in patients with canal paresis

Akemi Sugita-Kitajima, Izumi Koizuka

Department of Otolaryngology, St. Marianna University School of Medicine

 【はじめに】我々は振子様偏垂直軸回転検査(off-vertical axis rotation, OVAR)を用いた耳石器機能評価を報告してきた(Sugita-Kitajima et al. 2007, 2008, 2009)。重力方向を回転軸として回転刺激を与える垂直軸回転検査(earth-vertical axis rotation, EVAR)では,外側半規管のみが刺激される。一方,回転軸を傾斜させて回転刺激を与える方法がOVARであるが,重力加速度の方向が連続的に変化するため耳石器も同時に刺激される。このとき得られる眼球運動は,半規管—眼反射と耳石—眼反射がミックスしたものである。これとEVAR時の半規管—眼反射による眼球運動とを比較することにより,耳石器機能を評価することが可能となる。半規管麻痺(CP)の判定にはカロリックテストを用いるのが一般的である。今回,カロリックテストにおいてCPと診断された患者の前庭機能を評価するため,OVARを用い前庭—眼反射(VOR)の検討を行った。対象:健常人23名(男性19名,女性4名,平均26.2歳)およびCP患者21名(男性13名,女性8名,平均55.6歳,発症から回転検査実施までの期間;2か月〜9年,平均30.9か月)。CP患者の内訳:一側CP;17名(メニエール病2名,遅発性内リンパ水腫1名,遅発性内リンパ水腫+内耳奇形1名,前庭神経炎1名,ムンプス難聴1名,Ramsay Hunt症候群1名,薬剤毒性難聴(ストレプトマイシン)1名,めまい症9名)両側CP;4名 (Connexin 16 type難聴1名,めまい症3名)
 【方法】 OVARとEVARを行い,VOR利得の比較検討を行った。刺激条件は0.4 Hz,0.8 Hz,最大角速度60/secの振子様刺激,30 nose-upである。VORの利得を求める際は,得られた水平成分の眼球緩徐相速度波形に7回の移動平均を行い,フーリエ解析した上で算出した(Das et al. 1996)。さらにVOR利得を患側向きと健側向きで比較検討した。統計にはMann-WhitneyのU検定を用いた。
 【結果】 (1)CP患者におけるEVARとOVARのVOR利得は両周波数において有意差を認めなかった。(2)両側CP患者における0.4 Hz EVARでのVOR利得は健常人と比し有意な減少を認めた。(3)ふらつきを認めたCP患者(9/21)における0.4 Hz EVARでのVOR利得は健常人と比し有意な減少を認めた。(4)VORを患側向きと健側向きに分けて解析したところ,患側の0.8 Hz OVARでのVOR利得はEVARに比し有意な減少を認めた。
 【考察】 (1)CP患者におけるEVARとOVARのVOR利得は両周波数において有意差を認めなかった。これは健常人と同じパターンである(Sugita-Kitajima et al. 2007)。つまり,カロリックテストで両側CPであっても,必ずしもそれが前庭機能の低下や廃絶を意味するとは限らないことが示唆された。(2)ふらつきを訴えたCP患者における0.4 Hz EVARでのVOR利得は健常人と比し有意な減少を認めた。これらの患者においては,前庭代償が不完全であることが示唆された(Baloh et al. 1984)。(3)一側CP患者において,患側の0.8Hz OVARでのVOR利得はEVARに比し有意な減少を認めたことから,患側の耳石器機能障害の可能性が疑われた(Sugita-Kitajima et al. 2007)。また,VOR利得を患側向きと健側向きに分けて解析することは耳石器機能の左右差を評価する上で有用と思われた(Sugita-Kitajima and Koizuka, ANL 2013)。