宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 60, 2014

一般演題

4. 暖房時のエアコンから発生する微細水分粒子(mist)が皮膚の潤いに及ぼす影響

大野 秀夫,西村 直記,岩瀬 敏,菅屋 潤壹

愛知医科大学 生理学講座

Effects of water nanodroplets (mist) on facial skin moisture at heated room

Hideo Ohno, Naoki Nishimura, Satoshi Iwase, Junichi Sugenoya

Aichi Medical University, Department of Physiology

 【はじめに】 暖房時には室内湿度が低下するために皮膚乾燥は性ホルモン分泌量が減少する中高年女性にとっては関心の高い問題である。筆者らはエアコンから発生する微細水分粒子(ミスト)は直径が数十nmであるため皮膚角質層を浸透し水分保持に貢献しうるという作業仮説に基づいて中高年女性を対象にして実験を行ってきた。8名を対象とした冬期,夏期実験(2012年)から皮膚水分をミスト群とコントロール群で比較すると,ミスト群の方が水分は多くなる傾向があった;ミスト群を冬と夏で比較すると冬の方が水分は増加する傾向があった;部位では外眼角が傾向をよく表したが,統計的に有意な差ではなかった。以上をもとに,冬期は皮膚角質層のターンオーバーが亢進し角質細胞が未熟で小型化(Kikuchi et al, 2002)するためにミストが浸透しやすく,皮膚が薄く皮脂量が少ない外眼角でミストの潤い効果が発揮されるという仮説を設け,2014年2月に18名の被験者を対象として前回同様のプロトコルで再現実験を実施した。
 【実験方法】 温度24℃,相対湿度35%の人工気候室で2時間順応後120分間滞在時の外眼角の皮膚コンダクタンス(μS, Skicon-200EX, IBS社,Japan)および経皮水分蒸散量TEWL(g/m2h, VapoMeter, Dolfin社,Finland)を測定した。順応期を椅座安静状態で経たのち最初の測定(初期値)を行い,以降30分毎に4回,計5回測定した。
 【結果】 TEWL(経皮水分蒸散量):ミスト群がコントロール群より多かった。皮膚表面から蒸発するミスト(SSWL:skin surface water loss)があるためと思われる。ミストが皮膚表面に皮脂膜を形成しバリアを増す可能性は期待できない。
 皮膚コンダクタンス:ミスト群がコントロール群より多い傾向が示されるが有意ではない。
 TEWLと皮膚コンダクタンスの相関:ミスト浸透はTEWLの初期値,すなわち皮膚バリアの程度に依存するか否かをTEWLの初期値をX軸,皮膚コンダクタンスの120分間増減量をY軸として相関図をコントロール群,ミスト群について描いた。120分にはミスト群はY軸の0もしくは正の領域に散布するが,コントロール群は多くが負領域に分布している。このことからミスト群では水分が増加していると関あげられる。しかし,ミスト浸透によるものか,あるいは皮膚表面にいったん吸着して蒸発するまでのミスト層により皮膚からの蒸散すなわち本来のTEWL(Basic TEWL)が抑制された結果なのかについては判断できない。
 冬期の外眼角における潤いに対してミストが貢献できる可能性は示唆された。