宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 3, 47-48, 2014

解説記事

レオナルド・ダビンチの考察力と歴史の時差

菊地 宏和

菊地クリニック

Leonardo da Vinci and Helicopter

Hirokazu Kikuchi

Kikuchi Clinic

   ダビンチは画家で有名であり,1519年,67歳で逝去,それから早500年の歳月が過ぎているが,「モナリザ」の永遠の微笑は今も微笑んでいる。彼が優れた科学者でもあったことを知る人は少ない。驚いたことに世界初の「ヘリコプター」考案者と太鼓判を押しても間違いなく,もちろん500年前にはヘリコプターという名称は無く,「空気スクリュー(Aerial Screw)」の名で空飛ぶ機械の研究成果がフランスのクロ・リュセ城にあり,彼が考えた13種類の改良した設計図に「ヘリコプターの原理」に近い構造に練り上がるまでの全部の過程が残されている。
ダビンチは空気を十分な力で押さえ圧縮できれば,高速で回転させたスクリューは宙に浮かび上がり,空気という流動体を掻き分けて前に進むことが可能と考え,螺旋型のスクリュー自体は有り触れた一般的思考・考察範疇の物であったが,空気力学にスクリューを応用した考案はダビンチが世界初である事を後世忘れてはいけない。因みにこのヘリコプターの図案は最近まで,全日本空輸の社章でもあった。数世紀前,画家がペンとインクだけで優れた思考・空想力によりヘリコプターの設計図に近いものを考え出した人間の頭脳の計り知れない能力に感服・脱帽である。
この事柄は,「ロータリーの友」2013年2月号に札幌南クラブの近藤浩先生・北海道の整形外科医が書いている。
500年前と言えば既に磁気のことはマグネットと呼ばれ,古代ギリシャ時代より人間に知られ地球には南と北方向に大きな磁気が働くことも認められ,帆掛舟時代といえ,大航海の羅針盤として使用されていた。他方,日本の500年前は徳川家康が江戸に都を開いた年代となる。
今日の医・生物学における基盤は分子生物学に軸足を置き,分子とは原子の集合体であり,物質の最小単位は原子に置かれている。それより極小な単位を素粒子と呼び,今日の医・生物学は,量子論・量子力学の物理学世界となり,電子顕微鏡でも見えない「ナノ」範疇単位となり,ナノテクノロジーと騒がれている次世代電子工学の世界ともなる。ニュートン力学に基づくマクロの時代では,原子に基づき,量子力学・量子論に基づくミクロの世界は,素粒子に基づき,まったく異なる世界で一本の物理学理論では論ずることはできず,別の世界の出来事になってしまう。医・生物学界も電子工学の世界の如く量子生物学・医学の世界へと変貌すると予測される。量子力学・量子論というと宇宙科学の分野と考え,遠い遠く・医学とはかけ離れた世界と考える医師が大半であるが,15年前から日常的に臨床医学に用いられているMRIは日本語では「磁気共鳴画像装置」と名付けられ強力な診断力を発している。
磁気とはまさに量子力学で,15年後に実現する「リニアモーターカー・新幹線」は超伝導で磁気力学の応用でMRIに続く量子力学・磁気力学の応用でミクロ世界に人類が突入する。21世紀後半の地球上人類の日常生活がどのように変わるか,そして500年後の人類はと考えると楽しいが,「人間の叡智が人類を滅ぼす」とも囁かれ,現在の地球温暖化とともに数世紀先の地球天体は人類が住めない天体とならないように心ある世界を構築しなければならない。人間にはダビンチの如く空想が現実化できる脳・思考力が備わっているのだから5世紀先を見詰めて夢を実現化させよう。


(Received:21 March, 2013 Accepted:28 July, 2014)



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