宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 2, 31-32, 2014

解説記事

マッハ25─夢の宇宙飛行機─

菊地 宏和

菊地クリニック

Space Plane in Dream

Hirokazu Kikuchi

Kikuchi Clinic

   先日,本棚を整理していたら半世紀前の古新聞の切り抜きが出てきた。丁度その頃,私は宇宙開発委員会・長期ビジョン部会の委員となり,日本の20世紀後半・21世紀の宇宙開発の立案政策に携わるとともにNASAのスペースシャトル・国際宇宙ステーション計画に参加すべき事案に走り回っていた。夕方より科学技術庁で行われた会議4 に連日のように足を運び,深夜に至ることも多く,そのたびにタクシーで家に送ってもらったことも思い出され,恩師・故東大・大島正光教授(日本の航空宇宙医学の第一人者)推薦で世界の宇宙航空医学界の舞台で子供の頃からの夢であった宇宙医学科学が現実のものとなり,一生の私の宝物となっている。
 その時の会議議題の一部が後日新聞で報道されたのはこの記事で現在も着々と研究が進められてきているので,簡単に紹介するとともに今後との展望も語ってみたい。
 科学技術庁は有人宇宙飛行の技術を独自に開発する方針を含めた3,5,7「スペースプレーン検討会」を発足させ2,21世紀末を目指し宇宙往還や極超音速輸送のスペースプレーンを開発する基本方針を確立して,NASAのスペースシャトルに有人飛行を合せ持たせた構想である4。経済性や安全性を高め音速の25倍の速度でワシントン─東京間を行く,速度を上げ音速の27倍になれば地球周回軌道に乗り宇宙船として活動できる構造7であり,宇宙船・飛行機の両面を有する新型機である。米英でも同様の構想が有り「新オリエント・エキスプレス」計画3,6と名付けて最高速度マッハ25(音速の25倍)のスピードで米国東部ニューヨーク・ワシントン─東京間,又は東京─欧州諸国間でも2時間で飛行可能である。極超音速機が普通の旅客機のように滑走路で離着陸し,離着陸時にはターボジェットエンジンを用い,極音速飛行時には水素ガスを燃料として使う。極超音速機は,新開発の超音速燃料ラム(スクラム)ジェットエンジンを用いても,空気が薄く抵抗の少ない高度3,300 m〜117,000 mをマッハ12〜25の極超高速で飛行する。
 日本の挑戦2として旧航技研(現JAXA・宇宙航空技術研究所)が開発往還機構想はエンジンの構成,機体形成,目標速度等の大筋が新オリエント・エキスプレスと非常によく似ていて,滑走路から水平に離着し,宇宙基地や空港との往復が可能で,加えてスペースシャトルのように打ち上げのたびに燃料タンクを使い捨てにせず燃料のみ給入すれば何度でも再利用できる利点もあり経済的である。
 機体の大きさは全長77 m,幅35 m,重量350トンで滑走路から飛び立って大気圏内をマッハ25で飛行するときは高速で流れる空気を吸い込み水素燃料を燃焼させるエア・ブリージングエンジンが主に使われる。大気圏内ではこのエンジンと機体に取り付けられた液体酸素と液体水素ロケットを併用してマッハ25に加速して地球の引力圏を突破する。
 このような極超音速飛行を実現するためには世界初のエア・ブリージングエンジンや大気圏突入時の空気摩擦による千数百度の超高熱に耐える機体材料,極超音速飛行時の制御方法等,未知の技術開発が必要となるが,大半は既にスペースシャトルで解決済みである1
 スペースシャトルは構造がグライダー様式で地上宇宙基地や空港に帰還する際にはエンジンパワーは使用せず,空気抵抗圧と地球引力による影響のみで地球上に戻るので経済的もメリットが大きくエコフライトプランということができる。
 ロケット打上げには巨額な費用が掛かり一機打上げ費用100億円以上であるが,打上げエコプランとして有翼ロケットを磁気浮上式の橇に乗せ水平に打出す構造があり,JAXA宇宙科学研究所とJR東海の鉄道浮上式鉄道本部で進行している。
 JR東日本の東京─名古屋間の夢の磁気リニアモーターカーの実現は20年後に予定され,東京─名古屋間で先ず開通し所要時間は30分である。東京─大阪間の実現は少し遅れて35年後所要時間65分であり,この方式・理論を応用して新宇宙飛行機の初期加速を増し経済的にエコ・フライトにする研究も進んでいる。磁気リニアモーターカー新幹線は,橇の中に超伝導コイルを入れ地上のレールの電磁石との反発力で浮上するとともに両側のリニアモーターによって推進する。この部分はリニアモーターカーの台車とレールのシステムをそのまま使用でき,橇に乗った宇宙飛行体は時速300 kmまでリニアモーターカーで加速し,そこで一気にロケットを噴射し時速450 kmに達すると橇を切離して浮上する。滑走路は5 kmが必要となるが浮上式なので機体振動が少ない長所もある。
 音速25倍速度の飛行体が今世紀中に出現する可能性を多面から推測すると「間違いなし」の解答が自然に表示される。現在この計画はマッハ8までの速度を得ており日進月歩で研究が進展していると聞いている。
 本文を書くに当たり,下記の新聞報道を参考にし,一部引用した。


(Received:20 April, 2013 Accepted:30 June, 2014)

文 献

1) 朝日新聞:シャトルを飛ばそう。1986年10月15日.
2) 朝日新聞:日本版シャトル開発へ。1986年10月30日.
3) 読売新聞:マッハ25宇宙往還機。1949年7月23日.
4) 読売新聞:米の宇宙ステーション 日本も開発に参加。1949年7月26日.
5) 読売新聞:マッハ25 宇宙への旅いざなう。1949年7月28日.
6) 読売新聞:夢のオリエント特急。1950年10月9日.
7) 読売新聞:日本月面探査機を開発。1950年10月12日.


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