宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 100, 2013

モーニングセッション

不活動および運動トレーニングに対する身体適応

秋間 広,片山 敬章

名古屋大学 総合保健体育科学センター

Physical adaptation to inactivity and exercise training

Hiroshi Akima, Keisho Katayama

Research Center of Health, Physical Fitness and Sports, Nagoya University

不活動による身体適応の代表的なものとして,運動能力低下と起立耐性の低下がある。本セッションでは,運動能力低下の対抗措置としてインターバル負荷を用いた運動トレーニングによる身体適応について,呼吸循環,有酸素性運動能力と骨格筋の機能と形態の変化について紹介する。
 不活動による有酸素性運動能力の低下への対抗措置として,効果的な運動プロトコールを用いる必要がある。より高い強度の運動を可能な限り長時間行う方法として,インターバル負荷がある。この高強度のインターバル負荷は活動筋のみならず,中心循環(心臓)に対しても大きく影響することが報告されている。すなわち,ベッドレストや不活動では心臓容量の低下が大きいことから,中心循環への刺激をより与えることのできるインターバル負荷が対抗措置として有用であることが考えられる。
 ベッドレスト中の運動トレーニングにインターバル負荷を初めて用いたのはGreenleaf et al. (J Appl Physiol, 1997)の研究であろう。30日間のベッドレストの結果,コントロール群では最高酸素摂取量の低下(−18%)が見られたが,トレーニング群では低下が抑制されている(+4%)。名古屋大学にて実施された20日間のベッドレスト(プロジェクト代表:岩瀬敏)において,自転車エルゴメータが搭載された人工重力装置を用いたトレーニングが行われた。コントロール群では最大酸素摂取量が大きく低下(−26%)したが,トレーニング群ではこの低下が抑えられ(−7.5%),インターバル負荷の効果が証明された(Katayama et al. Aviat Space Environ Med, 2004)。
 不活動による筋機能低下や筋萎縮の対抗措置として最適な運動処方は,レジスタンストレーニングであろうが,上記で議論された有酸素性運動能力に対しての効果は期待できない。この両者の身体機能を同時に防ぐ可能性があるのがインターバルトレーニングであった。20日間のベッドレスト中に人工重力負荷とインターバルトレーニングを2日に1回の頻度で行った結果,対抗措置群の大腿部筋体積は維持され(−0.6%),最大筋力においても有意な低下は認められなかった(Akima et al. Aviat Space Environ Med, 2005)。
 片脚サスペンジョンによる不活動とインターバルトレーニングを組み合わせた研究では,2日に1回および4日に1回のトレーニングにより,大腿部の筋体積は維持されたが(−0.4%),膝伸展による随意最大筋力はトレーニング群においても有意に低下した(−19%)(Akima et al. Aviat Space Environ Med, 2009)。
 上記の筋力低下の結果を受け,それを改善するため,2日に1回のインターバルトレーニングに,さらにレッグプレスによるレジスタンストレーニングを加えた。その結果,大腿部の筋体積は維持されたが(+0.2%),予想に反して膝伸展による随意最大筋力がトレーニング群においても有意に低下した(−16%)が,トレーニング動作であるレッグプレスによる最大挙上重量は,トレーニング群では維持され(2%),コントロール群では有意に低下した(−24%)。
 以上の結果から,短期間の不活動中にインターバルトレーニングとレジスタンストレーニングを2日に1回の割合で行うと有酸素性運動能力,大腿部筋量および最大筋力が維持されることが明らかとなった。