宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 89, 2013

シンポジウム

「超高齢社会課題と「きぼう」日本実験棟の接点を探る─これからの尊厳ある高齢者生活の実現を目指して─」

1. 国際宇宙ステーションという名の過酷な閉鎖社会

澤岡 昭

大同大学

International Space Station as enclosed society

Akira Sawaoka

Daido University

国際宇宙ステーション(以下,ISSという)は,地上から約400 km上空に建設された巨大な有人実験施設である。1周約90分というスピードで地球の周りを回りながら,様々な実験を行っていることは多くの方に認知されるようになってきた。
 ISSには,通常6名の宇宙飛行士が搭乗している。3名の宇宙飛行士が約3ヶ月毎にオーバーラップしながら交代する形態をとる。6名の内訳は,ロシアが半数名,アメリカが約2名,残りがISS計画の参加国である日本,ヨーロッパ,カナダの宇宙飛行士である。公用語は,ロシア語と英語であり,ISSはまさに多国籍社会と言える。
 アメリカの有人宇宙船 スペースシャトルは合計135回の飛行をもって2011年に退役した。現在,ISSへ宇宙飛行士を運ぶ有人宇宙船はロシアのソユーズのみである。ソユーズは3人乗りで狭い船内ではあるが,技術は大変進歩し,行きは約6時間でISSへ到着するようになった。
 スペースシャトルの時代から,NASAは宇宙飛行士に宇宙で十分なパフォーマンスを発揮してもらうために,宇宙での生活環境を可能な限り快適にすることが重要だと考えてきた。例えば,食に関しては,スペースシャトルの登場以降,食品の数や形態が飛躍的に改善され,現在では約200種類のメニューがある。栄養計算やカロリー制限等はあるものの,基本的にはこれらのメニューから宇宙飛行士個人の好みによって食品を選び宇宙へ持って行くことができる。さらに,JAXAでも,日本人宇宙飛行士に宇宙で日本食の味を楽しんでもらい,閉鎖環境下での精神的なストレスを和らげ,仕事の効率の維持·向上につながることを目的として宇宙日本食を開発している。現在は,28品目を宇宙日本食として認証している。
 また,ISSでの睡眠はCrew Quartersと呼ばれる電話ボックス大の個室で取る。狭いながらもプライバシーを確保できる場所であり,普段は各宇宙飛行士の私物の保管場所にもなる。約6ヶ月の長期滞在を終える頃には自分だけの心地良い宇宙の空間がそこには広がっているようだ。
 ISSにはロシア製の2台のトイレがある。微小重力下では排泄物も浮遊·飛散してしまうため,ファンを回して空気の流れで尿と便を吸い込むような仕組みである。2台のうち1台は,回収した尿を尿処理装置に送り,ろ過/浄化処理して飲料水などに再使用している。このようにISSのトイレは地上と異なり複雑な構造であるため故障が多い。2台同時故障の場合は,深刻な問題となるだろう。若田宇宙飛行士は,前回のISS長期滞在で空き時間に率先してトイレ掃除を行い,閉鎖空間で全員が共有するトイレを皆が快適に使用できるように気を配った。このことは,これまでの地上及び宇宙での実績や訓練を通して獲得してきた信望をさらに高めることとなった。技術的に優秀であることに加え,前述のエピソードが表しているように人柄も素晴らしい若田飛行士は,ISS第38次/第39次長期滞在の後半からISSコマンダー(船長)を務める。
 閉鎖環境下で宇宙飛行士を支えるこれらの技術が今後地上の我々の生活にどのように役立たせていくのかを考えていく事が重要である。