宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 88, 2013

教育講演

医学研究に関する倫理的事項について

三浦 靖彦

医療法人財団 慈生会 野村病院 内科·総合診療部門

Ethical issues in medical research

Yasuhiko Miura

Department of General Medicine, Nomura Hospital

人類のさらなる幸福を追求するために,医学の発展が望まれ,医学分野における基礎研究·臨床研究は欠かせないものととらえられている。しかし,人類の歴史において,「医学研究」の名のもとに,数々の非人道的な研究が実施されてきた。古くは,ジェンナー,パスツール,ハンセンらによる人体実験があるが,戦争に絡むと,更に悲惨な出来事が起こった。満州事変におけるわが国の731部隊による医学実験,第二次大戦時のナチスドイツによる数々の非人道的な行為,米国の核爆弾開発のためのマンハッタン計画などが代表的なものである。これらの悲劇を繰り返さないことを目的に,医学実験に対する規制として,ニュルンベルグ綱領(1946),ヘルシンキ宣言(1964)が世に出たが,その後にも,米国におけるタスキギー事件(梅毒研究)などが起きている。そして,1974年,ベルモントレポートにより,研究倫理の倫理原則「人格尊重·恩恵·正義」が制定された。我が国においても,文部科学省·厚生労働省から,「疫学研究に関する倫理指針(2002)」,厚生労働省から,「臨床研究に関する倫理指針(2003)」が送り出され,ガイドラインは出揃ったが,その応用において,現場には,未だに混乱がある。
 本学会員においては,宇宙医学の実験のため,動物実験を行う会員も多いが,動物実験においては,いわゆる「3Rの原則」が定められている。すなはち,Replacement(代替法の利用),Reduction(使用動物数の削減),Refinement(苦痛の軽減)である。2006年には,日本学術会議から「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」が発表された。この中でも,特に,人道的エンドポイント,つまり,実験動物に対して,非人道的な過酷な条件(過度な固定·飢餓·脱水·疼痛·無処置など)を与えることは許容されず,人道的エンドポイントを遵守して,国際的に定められた安楽死処置を持って実験を終了すべきであることが述べられている。
 最後に,動物愛護基本法を引用するので,是非ここに述べられている基本方針を心に留めていただきたい。
 「動物愛護管理基本指針(動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針:環境省告示第140号平成18年10月)」
 動物の愛護の基本は,人においてその命が大切なように,動物の命に対してもその尊厳を守るということである。人と動物とは生命的に連続した存在であるとする科学的な知見や,生きとし生けるものを大切にする心を踏まえ,動物の命に対して感謝と畏敬の念を抱くとともに,この気持ちを命あるものである動物の取扱いに反映させる。人は他の生物を利用し,その命を犠牲にしなければ生きていけない存在である。このため,動物の利用または殺処分を疎んずるのではなく,自然の摂理や社会の条理として直視し,厳粛に受け止めることが現実には必要だ。