宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 87, 2013

特別講演

我が国が主導した最初の有人宇宙実験から20年が経過した重力ライフ·サイエンス研究

古賀 一男

京都ノートルダム女子大学 心理学部

Current situation of life science in space after the mission FMPT done by Japanese scientists

Kazuo Koga

Department of Psychology, Kyoto Notre Dame University

1992年9月12日KSCのシャトル専用発射台39Bから毛利衛·搭乗科学者を乗せたエンデバー号が離床した。我が国独自の実験が多くおこなわれた。その後20年余を経過しFMPTが残した多くの事実が急速に時間の底に沈み失われてゆきつつある。有人宇宙活動には巨額の費用が必要であることを声高に指摘してサイエンス·リターンが貧弱であるという批判があるが,未だかってそのような証拠が示されたことはない。このような風評を恣意的に捕らえて「日本における有人ミッションの可能性は無い」等という歪曲された暴言を耳にすることもあるがそれは正当な見方ではない。FMPTの経緯について多くの関係者が様々な証言を残している。総括的な観点から記述されたものとしてはFMPのサイエンス·マネージャであった松宮弘幸氏が宇宙実験について的確な総括と提言を残している。宇宙放射線の生物への影響,骨あるいは発生のメカニズムと重力の影響,微小重力環境下における細胞内シグナル伝達について,日本における宇宙医学の貢献に関するレビュー,日本人宇宙飛行士の選抜と訓練に関する概容,ヒトを被験者とした微小重力と知覚研究についての報告,等が多くの発言を行っている。本学会が発行する「宇宙航空環境医学」の編集委員長を長らく務められた大平充宣先生は微小重力と筋について継続的に報告している。JAXA(旧NASDA)のスタッフも様々な報告をおこなっている。FMPT以後のライフ·サイエンス,マテリアル·サイエンス領域の宇宙実験をサマリーした報告書も多く公刊されている。これらの資料を参考にしながらFMPTが実施された意義と問題点,今日に与えている影響,そして将来にむけて忘れ去られてはならない事柄について述べた。