宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 83, 2013

一般演題

31. 疑似無重量環境曝露による骨格筋の速筋化は熱ショック転写因子1欠損により抑制される

後藤 勝正1,2,大野 善隆2,杉浦 崇夫3,大平 充宣4,吉岡 利忠5

1豊橋創造大学大学院 健康科学研究科
2豊橋創造大学 保健医療学部
3山口大学 教育学部
4同志社大学
5弘前学院大学

HSF1-deficieny attenuates unloading-induced fiber type transition in mouse soleus muscle

Katsumasa Goto1,2, Yoshitaka Ohno2, Takao Sugiura3, Yoshinobu Ohira4, Toshitada Yoshioka5

1Department of Physiology, Graduate School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
2Laboratory of Physiology, School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
3Faculty of Education, Yamaguchi University
4Doshisha University
5Hirosaki Gakuin University

宇宙滞在など無重量環境への曝露は,骨格筋への荷重を著しく減少させる。そして,その結果として骨格筋,特に抗重力筋に顕著な萎縮が生じる。一般に,抗重力筋であるラットヒラメ筋における遅筋線維の割合は90%程度であり遅筋とも呼ばれる。荷重除去によりヒラメ筋は萎縮するが,その際には遅筋線維の割合が減少し,速筋線維の割合が増加,すなわち遅筋の速筋化が認められる。しかし,荷重除去に伴う骨格筋速筋化の機序は未だ明らかになっていない。荷重除去による骨格筋萎縮には,酸化ストレスに代表される細胞ストレスの関与が報告されている。したがって,筋線維タイプの移行に骨格筋におけるストレスが関与していることが示唆される。そこで本研究では,哺乳類骨格筋におけるストレス応答の転写因子である熱ショック転写因子1(heat shock transcription factor 1:HSF1)を欠損したマウスを用いて,荷重除去によるヒラメ筋の萎縮に伴う速筋化におけるストレス応答の関与を検討した。実験にはHSF1欠損マウスおよび対照として野生型マウス(ICR)を用い,両タイプのマウスに対して2週間の後肢懸垂を負荷した。2週間の懸垂期間終了後,通常飼育に戻して4週間飼育を継続した。後肢懸垂前,懸垂終了直後,終了2週間および4週間後に,マウス後肢よりヒラメ筋を摘出した。液体窒素で冷却したイソペンタン中にヒラメ筋を急速凍結し,厚さ7 μmの連続凍結切片を作成し,異なるタイプのミオシン重鎖を認識する抗ミオシン重鎖(MHC)抗体(抗type I-MHC,抗type IIa-MHC,抗type IIb-MHC)により免疫組織染色を施し,染色性より筋線維タイプをtype I,type I+IIa,type IIa,type IIxおよびtype IIbに分類した。懸垂,HSF1欠損マウスヒラメ筋におけるtype I MHCを発現する線維の割合は野生型マウスに比べて少なく,逆にtype IIx MHCを発現する線維の割合が高値を示した。2週間の後肢懸垂による荷重除去は野生型マウスおよびHSF1欠損マウスのヒラメ筋を萎縮させ,両タイプのマウスヒラメ筋の萎縮程度にHSF1欠損の影響は認められなかった。野生型マウスでは,荷重除去による筋萎縮に伴い速筋型(type IIa,type IIa,type IIx)MHCを発現する筋線維の割合増加,すなわち速筋化が生じた。しかし,HSF1欠損マウスでは,ヒラメ筋の速筋化は抑制された。懸垂終了後の通常飼育により,萎縮に伴って速筋化した野生型マウスヒラメ筋の筋線維組成は,徐々に遅筋線維の割合が増加し,速筋線維の割合の減少が観察された。一方,HSF1欠損マウスでは,筋線維組成に有意な変化は認められなかった。したがって,無重量環境曝露による筋萎縮に伴う骨格筋の速筋化にはHSF1あるいはストレス応答が関与していることが示唆された。なお本研究は,豊橋創造大学生命倫理委員会および遺伝子組み換え動物安全委員会による審査·承認を受けて実施した。本研究の一部は,JSPS科研費(22240071,24650411, 24650407)ならびに日本私立学校振興·共済事業団による学術振興資金を受けて実施された。