宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 82, 2013

一般演題

30. 荷重除去により萎縮したマウス足底筋における血管新生因子angiopoietin 1とTie-2発現応答

生田 旭洋1,2,江川 達郎1,鈴木 美穂1,大野 善隆1,杉浦 崇夫3,大平 充宣4,吉岡 利忠5,後藤 勝正1

1豊橋創造大学大学院 健康科学研究科
2特定医療法人宝美会 総合青山病院
3山口大学 教育学部
4同志社大学
5弘前学院大学

Expression levels of angiopoietin and Tie-2 in atrophied mouse plantaris muscle

Akihiro Ikuta1,2, Tatsuro Egawa1, Miho Suzuki1, Yoshitaka Ohno1, Takao Sugiura3, Yoshinobu Ohira4, Toshitada Yoshioka5, Katsumasa Goto1

1Department of Physiology, Graduate School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
2Aoyama Hospital
3Department of Exercise and Health Sciences, Yamaguchi University
4Doshisha University
5Hirosaki Gakuin University

宇宙環境への曝露は骨格筋に対する荷重を除去し,結果として骨格筋は萎縮する。こうした骨格筋の萎縮は,ヒラメ筋などの抗重力筋だけでなく足底筋などにも認められる。一方,骨格筋における毛細血管の構築に関しては,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)および血管内皮周囲細胞由来の血管内皮新生因子であるangiopoietin 1 (Ang 1)が知られている。Ang 1はその受容体であるTie-2を介しては,血管内皮細胞と壁細胞の接着を促進することにより新生血管の安定化に寄与する因子である。荷重除去による萎縮したヒラメ筋では毛細血管が減少していることから,骨格筋量の変化に応じて毛細血管網は変化することが示唆される。しかし,足底筋の毛細血管数には萎縮の影響は認められないなど,毛細血管と骨格筋細胞の相互関係には不明な点が多く残されている。最近になって骨格筋可塑性において重要な役割を演じている骨格筋特異的組織幹細胞である筋衛星細胞にAng 1およびTie-2(Ang 1/Tie-2)が発現することが報告された。したがって,骨格筋におけるAng 1/Tie-2は骨格筋量の制御および毛細血管網の構築の両方に関与し,相互の量的·機能的変化を調節する細胞間コミュニケーション分子として機能していることが示唆される。そこで本研究では,骨格筋の量的変化に伴う骨格筋組織内Ang 1/Tie-2の発現量の変化を検討し,骨格筋におけるAng 1/Tie-2の役割を追究することを目的とした。実験には,生後10週齢の雄性マウス(C57BL/6J)の足底筋およびヒラメ筋を用いた。マウスに対して,2週間の後肢懸垂を負荷し,荷重除去により足底筋·ヒラメ筋を萎縮させた。さらに懸垂終了後,通常飼育に戻すことで,両筋への荷重を再開し,その状態で2週間飼育した。マウスは気温23±1°C,明暗サイクル12時間の環境下で飼育し,餌および水は自由摂取とした。懸垂開始後,経時的にマウス両後肢より両筋を摘出し,即座に結合組織を除去した後,筋湿重量を測定した。筋湿重量測定後,液体窒素を用いて急速凍結し,−80°Cで保存した。得られたサンプルを用いて,筋線維横断面積·毛細血管数·筋衛星細胞数を計測し,Ang 1/Tie-2のタンパクと遺伝子発現をウェスタンブロット法およびリアルタイムRT-PCRにより評価した。後肢懸垂により,足底筋·ヒラメ筋の筋湿重量の減少が認められた (p<0.05)。したがって,本研究で用いた処置法により両筋で筋萎縮を引き起こすことができたと判定した。後肢懸垂により,骨格筋組織内のAng 1/Tie-2の発現量の低下が認められた(p<0.05)。また,懸垂終了2週後では,Ang 1/Tie-2の発現量の増加が観察された。また,毛細血管/筋線維割合はヒラメ筋では後肢懸垂により優位な減少が認められた(p<0.05)。しかしながら足底筋においては,後肢懸垂·懸垂終了2週後で毛細血管/筋線維割合に変動が認められなかった。本研究では,骨格筋萎縮に伴うAng 1/Tie-2タンパクの発現の減少が確認された。ヒラメ筋では萎縮に伴い毛細血管数の減少が認められたが,足底筋では毛細血管数に変化が認めなかったがAng 1/Tie-2発現量は減少した。つまり足底筋におけるAng 1/Tie-2発現量の変動は,毛細血管由来のものではなく,筋細胞あるいは筋衛星細胞におけるAng 1/Tie-2発現量を反映していることが示唆された。本研究の一部は,日本学術振興会科学研究費(挑戦的萌芽,24650411;基盤研究A,22240071)ならびに私立学校振興·共済事業団による学術振興資金の助成を受けて実施された。