宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 81, 2013

一般演題

29. 姿勢がヒラメ筋H波およびF波に及ぼす影響

高原 皓全1,山口 英峰2,関 和俊3,小野寺 昇4

1人間総合科学大学
2吉備国際大学
3流通科学大学
4川崎医療福祉大学

The effects of posture on soleus H-reflex and F-wave

Terumasa Takahara1, Hidetaka Yamaguchi2, Kazutoshi Seki3, Sho Onodera4

1University of Human Arts and Sciences
2KIBI International University
3University of Marketing and Distribution Science
4Kawasaki University of Medical Welfare

【背景】 ヒトの脊髄反射調節機構を検討する手法に誘発筋電図法がある。誘発筋電図法として,脊髄の興奮性の指標として用いられるH波およびF波がある。H波は,伸張反射の入力線維であるIa感覚入力に対してα運動ニューロンが発火した結果生じる複合筋電位である。F波は,運動神経線維に最大上の電気刺激を与えた時,刺激部位からの逆行性インパルスがα運動ニューロンを再発火させた結果生じる複合活動電位である。H波およびF波は,ともに脊髄の興奮性の指標として用いられる。しかしながら,発現の経路が異なることから,脊髄の興奮性評価について異なる解釈が必要であると考えられる。姿勢に応じて,脊髄の興奮性が変化することが報告されており,立位姿勢時は,臥位姿勢時や座位姿勢時と比較してH波振幅が抑制される。しかしながら,姿勢変化に伴う下肢筋群のF波の変化については不明な点が多い。姿勢に伴うH波とF波の分析から,脊髄反射回路における調節系の動態を詳細に検討できるものと考える。
 【目的】 本研究の目的は,臥位姿勢時と立位姿勢時における脊髄反射調節について,H波およびF波の変化から明らかにすることとした。
 【方法】 対象者は健康な成人男性9名であった。対象者には,インフォームドコンセントを実施し,研究参加の同意を得た。測定条件は,伏臥位姿勢条件および立位姿勢条件とした。各姿勢条件における測定は,5分間以上の安静状態を保持した後に行った。測定項目は,誘発筋電図H波およびF波とした。右脚膝窩部の脛骨神経に1 ms矩形波パルスを発生させ,刺激頻度0.2 Hzで経皮的に電流刺激を行い,同側ヒラメ筋からH波およびF波を誘発した。右側ヒラメ筋の筋腹に表面筋電図を添付し,差動増幅法にて筋電図を導出した。H波の分析項目は,振幅(最大H波/最大M波比)とした。最大H波および最大M波は,H波-M波動員曲線により同定した。F波導出時は,最大M波出現時の120%強度の電気刺激強度にて15回刺激を行った。F波の分析項目は15回刺激時の出現頻度とした。
 【結果と考察】 最大H波/最大M波比は伏臥位姿勢条件と比較して立位姿勢条件において有意に低値を示した。F波出現頻度は,伏臥位姿勢条件と比較して立位姿勢条件において有意に高値を示した。立位姿勢時におけるH反射振幅の減衰における生理学的意義は,反射利得を減少させることによって姿勢の安定性を獲得できることと考えられている。異名筋促通やD1抑制などの効果量による検討から,立位姿勢時におけるH波振幅の減衰にはシナプス前抑制によるIa感覚入力の減衰が大きく関与しているものと考えられている。立位姿勢時のH波の抑制はIa感覚入力に対して発火するα運動ニューロン数が低下したことを示唆する。一方,立位姿勢時のF波出現頻度の増加は,脊髄前角細胞の興奮性が亢進したことを示唆する。これらのことは,立位姿勢時において脊髄前角細胞の興奮性の亢進を相殺するIa感覚入力の抑制が生じたことを示唆する。本研究の知見は,立位姿勢時におけるH波振幅の減衰には,Ia感覚入力に対するシナプス前抑制が大きく貢献するものとする先行研究を支持すると考えられる。
 【まとめ】 伏臥位姿勢時と比較して立位姿勢ではH波振幅は減少し,F波出現頻度は増加することが明らかになった。