宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 80, 2013

一般演題

28. 抵抗運動後の不感温下腿浴が生理学的指標に及ぼす影響

高森 公美,小野 くみ子,石川 朗

神戸大学大学院 保健学研究科

The effects of lower-thigh bathing with insensible temperature following resistance exercise on physiological indices

Kumi Takamori, Kumiko Ono, Akira Ishikawa

Kobe University Graduate School of Health Sciences

【背景】 宇宙環境では,微小重力による力学的負荷減少により筋骨格系組織は著しい廃用性変化をきたす。このため,その予防は宇宙医学の重要課題と位置づけられている。また,重力は循環系にとっても重要であり,宇宙の微小重力暴露による循環血液量の減少,静脈容量の増加,自律神経機能の破綻,心機能の低下,圧受容器反射感受性の低下等が報告されている。実際の宇宙環境では運動後も微小重力に暴露されているが,抗重力筋抵抗運動後の微小重力暴露が及ぼす影響については明らかではない。
 【目的】 抵抗運動後の微小重力環境が生理学的指標に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。
 【方法】 対象は健常成人男性10名であった。倫理的配慮として,対象者には口頭および書面にて研究の目的,内容,危険性などを十分に説明し,書面にて同意を得た後に実施した。プロトコールは,初めに5分間の座位安静をとり,運動課題を2セット実施した。セット間に座位にて10分間のインターバルを,2セット目終了後に座位にて30分間の回復を設けた。運動課題は利き足にて片脚カーフレイズを2セット行い,最大挙上の60%より上がらなくなった時点を運動終了とした。インターバル時および回復時に下腿を不感温水(水温33〜34°C,水深33 cm)に着水させる(W)条件,着水させない(C)条件の2条件を設け,各条件は日を改めて順不同に実施した。測定項目は,運動継続時間,腓腹筋内側頭およびヒラメ筋の筋電図活動量(RMS,MPF),下腿周径,大腿周径,自覚的疲労度,心拍数(HR),心臓自律神経系活動(HF,LF/HF)であった。
 【結果】 筋電図活動量,運動継続時間は条件間で有意差はみられなかった。自覚的疲労度はインターバル後のC条件と比較しW条件において有意に減少した(P<0.05)。Δ下腿周径はインターバル後および2セット目後のC条件と比較しW条件で有意に減少した。Δ大腿周径は条件間で有意差はみられなかったが,C条件と比較しW条件で低値を示す傾向がみられた。ΔHRは回復25分時のC条件と比較しW条件で有意に減少した(P<0.05)。HFおよびLF/HFは条件間で有意差はみられなかった。
 【考察】 浸水による血中乳酸量の回復促進や筋疲労回復,筋痛の減少が報告されていることから,本研究において筋活動量および運動継続時間に影響を与える程ではないが,下腿浴により筋疲労の回復が促進され,自覚的疲労度が減少したと考えられる。心拍出量は,心臓に戻ってくる血液量の変化に応じた心臓自身による拍出の内因性調節と,自律神経系の働きによる心拍数や収縮力の制御によって調節されている。体が浸水すると水圧の影響により数十秒のうちに血液循環量が増加する。また,これは浸水水位にある程度依存する。先行研究において,浸水時の心拍数減少は静脈還流が増加に伴う一回拍出量の増加が主要因であるとする報告や,陸上運動後の水中回復において一回拍出量の増加がみられたとする報告があることから,本研究においても下腿浴による静脈還流の増加に伴い,一回拍出量が増加したため心拍数が減少したと考えられる。
 【結論】 運動後の被験筋浸水による微小重力暴露は,迅速に静脈還流を促進させることによって心拍数を減少させ,自覚的疲労度を軽減させることが明らかとなった。本研究の結果は,宇宙環境における廃用性身体機能低下への対策の一助となる可能性が示唆された。