宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 79, 2013

一般演題

27. 冷水浴による冷却刺激がM波及びH波に及ぼす影響

関 和俊1,高原 皓全2,山口 英峰3,小野寺 昇4

1流通科学大学
2人間総合科学大学
3吉備国際大学
4川崎医療福祉大学

Response to M wave and H wave by cooling stimulation at cold bath

Kazutoshi Seki1, Terumasa Takahara2, Hidetaka Yamaguchi3, Sho Onodera4

1University of Marketing and Distribution Sciences
2University of Human Arts and Sciences
3Kibi international University
4Kawasaki University of Medical Welfare

【背景】 生体は,体温調節機能を働かせることにより環境温度に適応する。環境温度の変化は,体温調節と同様に,骨格筋にも影響を及ぼす。冷水浴などの冷環境が骨格筋に及ぼす影響として,筋紡錘活動の低下,中枢への感覚インパルスの減少などが報告されている。冷水浴などの冷環境は,骨格筋のみに影響を及ぼすだけではなく,神経-筋系活動にも影響を及ぼすものと考えられる。そこで本研究は,脊髄α運動ニューロンの興奮性の指標であるH反射法を用いて,足浴に伴う冷却刺激(冷水浴)がM波及びH波に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
 【方法】 対象者は成人男性6名(年齢:20±0歳,身長: 169.0±2.0 cm,体重:64.2±4.3 kg)であった。対象者には,研究の目的,方法,危険性について説明し,参加の同意を得た。冷水浴の足浴時間は15分,温度は15°C,水位は踵点から15 cmの高さとした。測定項目は,心拍数,心臓自律神経系調節,血圧,直腸温,皮膚温(腓腹筋·ヒラメ筋),主観的温度感覚,H反射とした。各測定時間帯のH反射の解析項目は,M波及びH波の潜時(peak time),Mmax振幅,10%Mmaxに対するH波振幅とした。H反射はヒラメ筋を被験筋とし,座位姿勢にて足浴前,足浴中,足浴後(回復30分)に5分毎に測定した。ヒラメ筋のH反射は膝窩部の脛骨神経にアイソレーターを通じて,5秒に1回の間隔で連続的に電気刺激をすることによって誘発した。刺激強度は各測定前の最大M波の10%とした。
 【結果と考察】 心拍数,心臓自律神経系調節,血圧及び直腸温は,今回用いた冷水浴(温度,時間)では時間経過に伴う有意な変化は認められなかった。主観的温度感覚は,冷水浴直後から,対象者は「冷たい」と評価し,冷水浴後の時間経過に伴い安静レベルに戻った(P<0.05)。皮膚温は,安静時と比較して足浴後から実験終了後まで有意に低値を示した(P<0.05)。M波及びH波peak timeは,足浴後から実験終了まで有意に遅延した(P<0.05)。冷水浴による皮膚温の低下に伴い,神経伝導速度が遅延し,M波及びH波peak timeに遅延が観察されたと考えられる。運動単位の動員閾値の評価指標であるH波-M波潜時に変化がないことから,今回用いた冷水浴は,運動単位の動員閾値への影響が小さい可能性が示唆された。最大M波振幅は,足浴開始後増加し,足浴後低下した(P<0.05)。皮膚温の低下に伴い,筋収縮時のナトリウム及びカリウムチャネルの開閉時間の変化がNa+及びK+の流入量に影響を及ぼし,最大M波振幅に変化が生じたと推測された。脊髄α運動ニューロンの興奮生の指標であるH波振幅は,冷水浴終了5分後に有意に低下した (P<0.05)。冷水浴後にも皮膚温が低下していることから,皮膚温の低下の度合いに応じて,脊髄α運動ニューロンの興奮性に影響を及ぼすことが示唆された。
 【まとめ】 今回用いた15分間の冷水浴(15°C)刺激は,脊髄反射回路よりも,末梢への影響が大きいことが示唆された。