宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 77, 2013

一般演題

25. 顔の皮膚乾燥緩和への微細水分粒子の効果について個人差を考慮した冬·夏の比較検討

大野 秀夫,西村 直記,岩瀬 敏,菅屋 潤壹

愛知医科大学 生理学講座

Effects of water nanodroplets on facial skin moisture during winter and summer

Hideo Ohno, Naoki Nishimura, Satoshi Iwase, Junichi Sugenoya

Department of Physiology, Aichi Medical University

筆者らはエアコンから発生される微細水分粒子(ミスト,Φ20〜70 nm)が低湿度環境における在室者の皮膚乾燥緩和に及ぼす影響について研究を行っている。冬季の頬は寒冷刺激によりturnoverが亢進し,未熟な角質細胞が表面を覆うためバリア機能が低下し,皮膚からの経皮水分蒸散量(TEWL)が増加したという先行研究がある。筆者らはバリア機能の弱体化は逆に皮膚表面から角質層へミストが浸透しやすくなる可能性も考えられるという仮説をもって冬期(2〜3月)におけるミストの皮膚潤いへの影響を夏期(7月)と比較測定した。8名の40〜50歳代の健常女性を対象に温度24°C,相対湿度35%の人工気候室で120分間滞在時の前額(中央),外眼角,頬(頬骨の上)の皮膚コンダクタンス(μS, Skicon-200EX,IBS社,Japan)およびTEWL(g/m2h, VapoMeter, Dolfin社,Finland)を測定した。被験者は実験室で着替え,身体への生理反応測定センサー装着を含む2時間の順応期を椅座安静状態で経たのち最初の測定(初期値)を行い,以降30分毎に4回,計5回実施した。
 TEWL(経皮水分蒸散量):コントロール群において冬期が夏期より多かった。ミスト群においても傾向は変わらず,外眼角と頬では有意な差であった。皮膚バリアは冬期の方が夏期より弱いことが示されている。しかし,皮膚からの蒸散の抑制あるいは増加に対するミストの影響は示されなかった。
 皮膚コンダクタンス:コントロール群では夏期が冬期より有意に多かった。ミスト群でも傾向はコントロール群と一致するが有意な差ではなかった。その理由として外眼角ではミスト群において夏期は120分間で減少傾向であったが,冬期は微増傾向を示した。一方,冬期におけるコントロール群とミスト群の比較(前者−3.0±25.1,後者15.5±30.7,n.s.)からも冬期にはミストが浸透しやすいことをうかがわせる。
 TEWLと皮膚コンダクタンスの相関:ミスト浸透はTEWLの初期値,すなわち皮膚バリアの程度に依存するかをTEWLの初期値をX軸,皮膚コンダクタンスの120分間増減量をY軸として冬期のコントロール群とミスト群のデータの相関図を描くと,減少したのは冬期では1名,夏期では6名であり,冬期にミストが浸透しやすかったことを示している。
 今後,データ数を増やして皮膚潤いへのミスト効果をさらに検討していく予定である。