宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 73, 2013

一般演題

21. 国際宇宙ステーション日本モジュール大気の微生物と検疫

嶋田 和人

宇宙航空研究開発機構 飛行技術研究センター

Quarantine aspects of the International Space Station Japanese Module Atmosphere

Kazuhito Shimada

Japan Aerospace Exploration Agency Flight Research Center

【はじめに】 国際宇宙ステーション(ISS)では飛行士の健康管理運用のために定期的に船内表面のスワブと飲料水を検体として培養分析を軌道上(目視コロニー計数)と地上回収で行っている。大気については環境物質分析を定期的に地上持ち帰り検体で実施している。
 大気のダスト,微生物については不定期に空調フィルターを検体にして分析が行われており,JAXAでも2012年の日本実験モジュール与圧部(JPM)の検体の微生物分析を実施した。結果として環境菌が主であり病原性の観点からの問題はないと判断された。しかしISS外への大気放出を通じて,暴露部で実施する「たんぽぽ」実験のような捕集を目的とする実験への影響が考えられる。
 【方法】 今回の検体はJPMの大気ベンチレーションシステムの,キャビン側から装置内への吸い込み口の金属メッシュに約一週間でたまった埃(小指爪大の綿埃)であり,JPM大気中の浮遊物を採集したものである。飛行士が採取物をジップロック袋に入れたものをSpaceXドラゴン貨物機で回収した。回収後,NASAジョンソン宇宙センターから筑波までの輸送については湿度センサーをサンプルに添付し乾燥状態であったことを確認することができた。金属メッシュは異物がシステム内に入ることを防止するのが主な目的であるが,埃がたまると,埃自体がフィルターとして働くことにもなり,次の段階のHEPAフィルターでは事前想定よりもダストの集積量が少なくなっている。
 中外テクノス(株)にてDGGE解析を実施した。検体からDNAを抽出し,真正細菌と真菌を対象にそれぞれPCR反応を行い,GCクランプを除去し,電気泳動での明瞭なバンドを切り出してDNAを抽出し,シーケンシング反応を行った。種の同定にはGenBankデータベースを参照した。
 【結果】 真正細菌属ではStaphylococcus,Propionibacterium,Corynebacterium,Streptococcus,Escherichia,Xanthomonadalesが同定された。44%のバンドは同定を行っていない。真菌ではSaccharomyces属が同定された。
 【考察】 クルーの健康管理上問題になる所見は認められなかった。大半の菌は人体由来と推定される。E. coliも検出されており,大気浄化に傾注したISS内環境でも微生物の分界は難しいことが分かる。
 地球外天体の有人探査では環境への重大な影響が不可避であり,ポリシーを事前に明らかにすることが必要となる。COSPARなどでは月面の保護は認識されていないが,SELENE衛星で発見された月面の春山縦孔の探査計画でも水の存在が予想されることから探査機材の検疫に関しての検討が必要である。