宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 71, 2013

一般演題

19. 頭部傾斜感覚に影響を与える因子

和田 佳郎

奈良県立医科大学 生理学第一講座

Factors affecting head tilt perception

Yoshiro Wada

Department of Physiology I, Nara Medical University

【目的】 空間識研究の一環として頭部傾斜感覚をテーマとした実験を行ってきた。これまでのデータから,頭部傾斜感覚に影響を与える因子についてまとめ,その機能的意義について考察した。
 【方法】 頭部を静的にroll傾斜させた際の重力軸と頭部軸の成す角度を頭部傾斜角度,自覚的重力軸と頭部軸の成す角度を頭部傾斜感覚とし,頭部傾斜感覚/頭部傾斜角度を頭部傾斜感覚ゲイン(Gain of head tilt perception, HTPG)と定義した。すなわち,頭部傾斜感覚はHTPG=1であれば正確,HTPG>1であれば過大,HTPG<1であれば過小と評価出来る。簡便にHTPGを測定·解析できるシステムを構築し,以下の各条件にてHTPGの測定を行った。① 座位と立位 (健常人, n=107),② 若年者 (29歳以下)と中高年者(30歳以上)(健常人, n=107),③ 床上立位とスポンジ上立位 (健常人, n=60),④ 受動的頭部傾斜と能動的頭部傾斜 (健常人,n=40),⑤ 健常人(n=107)と各種めまい患者(n=44)。
 【結果】 HTPGの平均は,① 座位(1.02)<立位(1.06),② 立位にて男性は若年者(1.03)<中高年者(1.14),女性は有意差無し,③ 床上立位(1.01)<スポンジ上立位(1.03),④ 受動的頭部傾斜(1.09)<能動的頭部傾斜(1.14),⑤ 立位で健常人(1.06)<めまい患者(1.11)であった(①③④ はpaired t-test,②⑤ はt-test,p<0.001)。いずれも不安定な姿勢になるほどHTPGが高くなる傾向を表している。
 【考察】 上記の結果は,「姿勢が不安定になると立ち直り反射をより発揮させるため頭部傾斜感覚の感度を高くする」という中枢神経系の機能を表していると考えられる。このように頭部傾斜感覚は,姿勢制御の状態を評価する新しい平衡機能の指標である。