宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 69, 2013

一般演題

17. 航空医療搬送における臨床工学技士の有用性と課題

篠原 一彦

東京工科大学 医療保健学部

Roles and problems of clinical engineers for aero-medical transportation service

Kazuhiko Shinohara

School of Health Sciences, Tokyo University of Technology

【はじめに】 航空機内での医療機器の使用に際しては,患者,医療機器双方において機内固有の課題が存在する。人工呼吸器や補助人工心臓装着患者の航空医療搬送では,医師とともに臨床工学技士の添乗の必要性も増加している。航空医療搬送における臨床工学技士の有用性と課題を論じる。
 【航空医療搬送の課題】 医療スタッフ側の課題として航空医学教育がある。特に減圧·乾燥·振動などの機内環境が患者と医療機器双方に及ぼす影響に関する教育が欠如している。医療機器の課題として,減圧·乾燥などによるバルーン·点滴·ショックパンツ·人工呼吸器などの状態変化,医療機器の機内使用における電源·ガスなどエネルギー源,航空機·医療機器双方の電磁干渉,機材の固定や重量,医療機器·航空双方における法的課題などが存在する。重症患者の航空搬送と医療機器の機内使用に際しては航空会社との事前交渉も必要である。このような患者ならびに医療機器双方の課題について,医師や看護師のみで対応することは,現在の医学教育と職種の専門性からも限界がある。
 【臨床工学技士の有用性】 臨床工学技士の業務は生命維持管理装置の操作ならびに保守点検と規定されており,教育内容も医学·工学·臨床工学の3領域にわたる。臨床工学技士学校養成所指定規則でも必修科目として基礎医学·臨床医学系科目20単位,理工学·システム工学系基礎科目23単位,医用安全管理学·臨床実習を含めた臨床工学系科目36単位の履修を定めている。特に人工心肺·補助人工心臓·人工透析·人工呼吸器などの原理·操作法·使用中の病態生理などに関する医·工双方の専門教育を受けた臨床工学技士の存在は,重症患者搬送時には,専門医の添乗とともに極めて有用な資源である。また医療機器の機内使用における電源·ガス·電磁干渉などの課題への対応も,電気電子工学·医療機器安全管理学の教育を受けた臨床工学技士が最適である。航空機内での電源や器材固定といった技術的には比較的軽微な事案についても,医療機器では薬事法上の対応も必要となるので,臨床工学技士の卒前教育における医療機器の関連法規教育の存在も有用である。
 【今後の課題】 航空医療搬送に臨床工学技士を活用するために,臨床工学技士の卒前·卒後教育に追加すべき内容としては,航空生理学·航空医学の基礎,振動·騒音·減圧環境下での医療機器の管理と操作,医療機器·航空双方における関連法規,航空運航システムの概要とCrew Resource Management,さらに「フライトCE」などの教育研修システムと資格認定制度の整備などが挙げられる。