宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 68, 2013

一般演題

16. 成田国際空港クリニックにおけるボディーパッカー(腹部内異物)例

赤沼 雅彦,松浦 直子

日本医科大学 成田国際空港クリニック

Cases of body packer at Narita International Airport Clinic

Masahiko Akanuma, Naoko Matuura

Nippon Medical School Narita International Airport Clinic

日本医科大学成田国際空港クリニックでは東京税関成田支署(成田税関)の依頼を受けてボディーパッカー(禁止薬物などを消化管内や腹部臓器内に隠して密輸入を試みる者)疑いの入国者腹部レントゲン撮影を実施し,腹部臓器内の異物の確認をしている。最近のクリニックでのボディーパッカーの腹部レントゲン写真の典型例とその排出された薬物の包みを供覧する。一部単純レントゲンでは明確な異物と断定できない液体状のコカインの単純レントゲンと腹部CTも供覧する。さらに,単純レントゲンでは明確な異物とは断定しにくく,腹部CTで明らかになった液体状の覚せい剤の単純レントゲンと腹部CTも供覧する。また,航空機内では低圧状態であり,薬物を包んだ包装物が穿孔し薬物が消化管内に大量に出て急性中毒症状を呈する場合がある。今回我々は頭痛ともうろう状態で受診し,急性薬物中毒であった症例を経験したので報告する。症例:47歳外国人男性,日本在住日本語での会話が可能。成田への機内で頭痛が発現し,バファリンを内服(付き添いの友人の話)。意識もうろう状態になり当クリニックへ車椅子で搬送された。診療中に徐々に不穏状態となり,頭部CTで脳浮腫を認め,救急病院へ転送。胃内に多数の異物(アヘンの包み)を認め急性薬物中毒と診断された。内視鏡にて可及的に摘出し,下剤を投与し残存異物の排泄を図った。第6病日まで人工呼吸器管理を要したが,その後順調に回復し第9病日には退院,その場で逮捕された。消化管内の異物は成田税関により公表されている同様な他の例を示す。
 また,覚せい剤を大量に消化管内に隠匿していて腹部レントゲンで異物を指摘され入院になり,その後緊急手術を要した例の腹部レントゲンを供覧する。さらに消化管内ではなく膣内に違法薬物を隠匿して入国しようとし腹部レントゲンで異物を指摘され骨盤内CTでも異物が明らかになった姉妹のレントゲンとCTを供覧する。
 以上,違法薬物を消化管内や腹部に隠し密輸入を試みた最近の腹部レントゲン·CTと消化管内で薬物が漏れ出し急性中毒になった症例を提示した。