宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 2013

一般演題

5. 防衛医科大学校における宇宙航空環境医学分野の教育について

西山 靖将1,藤田 真敬2,立花 正一2,大橋 幸一郎3,金谷 泰宏4,妻鳥 元太郎1

1防衛医科大学校 防衛医学講座
2防衛医科大学校 防衛医学研究センター 異常環境衛生研究部門
3防衛医科大学校 幹事
4国立保健医療科学院 健康危機管理研究部

Education associated with areospace environmental medicine in National Defense Medical College

Yasumasa Nishiyama1, Masanori Fujita2, Shoichi Tachibana2, Koichiro Ohashi3, Yasuhiro Kanatani4, Gentaro Tsumatori1

1Department of Defense Medicine, National Defense Medical College
2Division of Environmental Medicine, National Defense Medical College Research Institute, National Defense Medical College
3Vice President of Military Affairs, National Defense Medical College
4Department of Health Crisis Management, National Institute of Public Health

医師たる幹部自衛官すなわち医官の養成のために設立された防衛医科大学校は,今年創設40周年を迎えた。そこで本演題では,防衛医科大学校における宇宙航空環境医学に関係する教育の状況を明らかにして,今後の展望を考察することを目的にした。医官は自衛隊員の健康管理に主要な役割を果たすため,本校では,幅広いプライマリー·ケアを実践できる総合臨床医の育成を重視した医学教育と,自衛官として最低限必要な基本的な素養を身に付けるための自衛官教育が行われてきた。しかしながら,基本的には一般の医大とほぼ同様の教育が長く行われてきた。その後,冷戦構造の崩壊によって世界の安全保障環境が大きく変化し,紛争や軍事的衝突が相次いだため,日本は国際社会の一員として,世界各地の国際貢献活動に参加する任務が求められてきた。また地下鉄サリン事件や米国同時多発テロに代表される同時多数に発生する傷病者への対応,一方では,阪神淡路大震災や奥尻沖津波災害をはじめとする大規模な自然災害への対応にも役割を期待されている。このような医官を取り巻く社会情勢の変化というパラダイムチェンジを背景に,「存在する医官」から「実際に行動できる医官」の養成のために本校の抜本的な教育の再検討が行われた。かかる議論を受けて,医官の養成という建学の精神をもう一度認識して精神性の涵養教育を行うとともに,従来からの教育に加えて,医官の任務に特有する特殊環境医学,行動科学,外傷外科学,医療工学,情報システム,感染症疫学などの研究を行う防衛医学研究センターが設置され,医官の任務を支える高度な基礎研究に役立っている。更に,有事や災害時における自衛隊の医療対処を系統的に教授する防衛医学講座が新設された。防衛医学の使命は,基礎·臨床医学と自衛隊の多様な任務を関連づけ,衛生支援に寄与できる質の高い医官の育成を目指すことである。このため,航空医学をはじめとする特殊環境医学,負傷者の後送,重症患者の長距離移送など,必然的に航空機に関連した内容が多く,航空機の運用に欠かすことのできない航空適正,航空生理学,健康管理,航空機事故調査などの概要についての系統講義が盛り込まれている。また,航空自衛隊の第一線部隊を訪問して実物の航空機やパイロットスーツを見学し,航空部隊の勤務者や航空医官と意見交換を行うなど,部隊実習を通じて平素の座学で得られる知識を深める取り組みも行われている。多様化する自衛隊の任務を着実に遂行していくためには,航空機の利用が不可欠であり,航空環境医学に対する理解はますます求められるであろう。このためには,宇宙航空環境に関わる基礎医学の理解を深め,日夜飛躍的に進歩する航空技術に医学を応用していく努力が必要であろう。東日本大震災では災害医療チームの搬送,遭難者の救出,患者の搬送,医薬品の輸送に航空機が重要な役割を果たした。これらの教訓をもとに,過酷な航空環境下にあっても適切な医療を実践できるスタッフを養成し,官民が連携して航空機による医療支援ができる態勢をつくることが望まれる。今後,宇宙航空環境医学会との緊密な連携は将来の人材育成に重要と思われる。