宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 2013

一般演題

4. 宇宙歯科における今後の運用と研究について

財津 崇1,太田 敏子1,須藤 正道1,2,緒方 克彦3,松本 暁子3,三木 猛生3,大島 博1,向井 千秋1

1宇宙航空研究開発機構 宇宙医学生物学研究室
2東京慈恵会医科大学 宇宙航空医学研究室
3宇宙航空研究開発機構 宇宙飛行士健康管理グループ

The medical operation and research of space dentistry

Takashi Zaitsu1, Toshiko Ohta1, Masamichi Sudoh1,2, Katsuhiko Ogata 3, Akiko Matsumoto3, Takeo Miki3, Hiroshi Ohshima1, Chiaki Mukai1

1Space Biomedical Research Office, Japan Aerospace Exploration Agency
2Division of Aerospace Medicine, The Jikei University School of Medicine
3Astronaut Medical Operations Group, Japan Aerospace Exploration Agency

前回は,宇宙環境で発症した歯科疾患と運用上の対応について現状報告を行った。現在の国際宇宙ステーションには急性の歯科症状が発症した際に適切な対応ができる歯科医師がおらず,歯科医療器具も不十分であるため,発症を予防するための口腔健康管理が必要である。そのためには宇宙飛行士の飛行前の歯科疾患発症リスクを十分に管理することと宇宙滞在中に宇宙飛行士の自己管理で発症を予防することが重要である。
 現在までNASAで行われている宇宙飛行士の口腔疾患診断基準は,主に自覚症状があるものについて注目されている。宇宙環境で特に問題となるのは,痛みを伴う急性症状であり,特に歯髄に関わるう蝕,急性歯周炎(歯周膿瘍),急性症状を伴う根尖病巣,歯根破折などである。今後の宇宙飛行士の年次医学検査や採用時の検査項目においては,これらの歯科疾患の診断とそのリスクについても評価を行う必要がある。宇宙航空研究開発機構·健康管理グループと協力して,歯周病や慢性根尖性歯周炎など今までの基準ではあまり問題とならないが,宇宙環境で急性化して疼痛の発生が予測される歯科リスクの診断基準·治療指針の提案が必要である。う蝕などはC0(初期う蝕)からC4(歯冠が崩壊したう蝕)まで段階別に評価し,歯周疾患については日本歯周病学会ガイドラインを参考にして,治療勧告を行うなど宇宙環境用の新しい歯科のガイドラインの提言が重要である。
 また宇宙環境では,宇宙飛行士自身により口腔清掃のモチベーションを高め,口腔衛生を維持し,口腔内細菌量や歯肉炎症など歯科疾患リスクが低い状態を保つ必要があり,そのためには特に口腔のセルフチェック能力向上に重点を置いた口腔セルフケアプログラムが重要である。具体的には,多忙な宇宙飛行士に短時間で効果的に口腔セルフケアを習得できる教育プログラムの教材を作成する。宇宙環境は水の使用制限や閉鎖環境など通常と比べて特殊であるため,環境に合わせた歯科基礎知識,口腔清掃技術を効率よく習得できる教材および口腔のセルフチェック能力を磨いて「歯科医師の眼」を持ってもらい自分で自身の疾患の予防と対応を可能にする教材を作成する。また教材によって磨かれたセルフチェック能力により,軌道上で定期的に歯科疾患リスクを管理するセルフチェックシートを作成する。リスクを点数化することにより客観的に自己の状態を評価することができ,特に気を付けなければいけない課題が分かりやすくなり,口腔ケアへのモチベーションにもつながる。現在,東京医科歯科大学と協力して口腔セルフケアプログラムの作成を進めている。