宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 4, 55, 2013

一般演題

3. 米国の機上搭載医療機器に関する電磁干渉基準

藤田 真敬1,山本 頼綱1,西山 靖将2,立花 正一1,金谷 泰宏3

1防衛医科大学校 防衛医学研究センター 異常環境衛生研究部門
2防衛医科大学校 防衛医学講座
3国立保健医療科学院 健康危機管理研究部

United Sates electromagnetic interference standard for onboard medical equipment

Masanori Fujita1, Yoritsuna Yamamoto1, Yasumasa Nishiyama2, Shoichi Tachibana1, Yasuhiro Kanatani3

1Division of Environmental Medicine, National Defense Medical College Research Institute, National Defense Medical College
2Department of Military and Disaster Medicine, National Defense Medical College
3Department of Health Crisis Management, National Institute of Public Health

東日本大震災において重症患者や難病患者,在宅医療患者の空輸では軽症患者とは異なる配慮が必要となった。これらの患者には人工呼吸器,体外循環装置,監視モニターなど医療用電子機器を伴う場合があり,一般に飛行安全の観点から搭載前にこれらの機器と航空機器との電磁適合性の確認が必要とされる。
 平成25年5月13日,米空軍スコット空軍基地·患者空輸司令部(米国イリノイ州ベルビル)を訪問し,米国,米軍の機上搭載医療機器に関する基準を調査した。
 米国において航空機搭載機器として認可を得るためには電磁干渉,耐震,温度など様々な項目に関する基準に合格する必要がある。市場販売には基本的な電磁適合性基準であるIEC60601-1-2(国際電気標準会議,医療機器基準60601-1-2)に合格する必要がある。本基準は邦訳されJIS T 0601-1-2(医用電気機器─第一部:安全に関する一般的要求事項─第2節:副通則─電磁両立性─要求事項及び試験)となっている。現在販売される医療機器は我が国も含めてこの基準に合格している。民間機搭載の電磁適合性の許容の可否を判定する場合にはRTCA/DO-160(米航空無線技術委員会基準160)がある。本基準は邦訳されJIS W 0812 (航空機搭載機器─環境条件及び試験手順)となっている。我が国における航空会社やドクターヘリは原則的にこの基準に従う。軍用機搭載時には更にきびしい基準MIL-STD-461(米国防省基準461)がある。本基準は邦訳されNDS C 0011C (防衛省規格 電磁干渉試験方法)となっている。陸上自衛隊などは電磁遮蔽シートなどを駆使して本基準の許容範囲となる機器を選択している。
 これらの基準によらず,実際の飛行試験で支障の無いものを積極的に許容する海上保安庁や東京消防庁の事例も見られる。航空機の飛行方式には有視界飛行方式と計器飛行方式があり,計器飛行方式による飛行時には,特に搭載医療機器の電磁干渉により注意を払う必要が生じる。それらの飛行試験の報告では,ある種の除細動器の作動時に計器飛行方式に必要な方位計の瞬間的な誤表示を生じることがあったとされる。飛行中の除細動器の作動によりこのような事象が散見されることは専門家の間では良く知られている。このような場合には計器飛行方式による飛行を,有視界飛行方式に切り替える必要を生じるかもしれないとされている。雲中など視界不良時には計器飛行方式から有視界飛行方式への切り替えは危険を伴うため,十分な安全への配慮から,除細動器の使用は機長への伺いと許可が必要とされている。患者空輸の現場では,検証が不明の医療機器を伴い,緊急空輸を行わざるを得ない事例もあり,そのような医療機器搭載を伴う事例で,飛行安全に支障を来す危険事象やその他の懸念事項の報告が無いことも知られている。我が国の重症患者空輸に伴う機上搭載医療機器の電磁適合性基準についての各担当部署の認識の相違は,効率的な患者空輸制度の発展の律速段階になっている。
 平成25年10月31日,米連邦航空局は,技術的な観点から現状の規制を見直し航空機の離発着時を含めた全飛行段階における電子機器の使用を解禁した。
 この様な時流から,今後は,患者を運ぶという積極的な制度構築の再考が必要となるであろう。大災害に備える更なる体制整備には基準の再考,関連官公庁及び官民の情報共有,搭載医療機器の十分な確保が必要である。