宇宙航空環境医学 Vol. 50, No. 3, 2013

解説記事

宇宙科学と医学

菊地 宏和

菊地クリニック

Space Science and Medicine

Hirokazu Kikuchi

Kikuchi Clinic

(Received:27 February, 2013 Accepted:12 April, 2013)

宇宙科学・宇宙開発も段々と日常生活の出来事として話題を呼び集め,日常的なトピックスとなって来ている。最近の話題は何と言っても「ヒッグス粒子」でこれが質量の起源と騒がれている。質量というのは物質の重さである。宇宙は真空状態で質量は無いと考えられていた。今日の研究では,宇宙の真空状態・宇宙空間にも超微小であるが質量もあり,真空エネルギーも存在する事が証明されている。素粒子は超微小で,目には見えず,原子より更に小さい粒子である。人体にも降り注ぎ通過していくと言われ,超小型故,無影響とされているが果たして真実なのであろうか。宇宙は,膨張している事が判明し,そのエネルギーは素粒子に由来していると考えられている。その巨大エネルギーが身体に無作用,無影響とは当然考えられず,誰の目にも謎であることが明らかである。
 世界中の宇宙有人飛行体験者は1,500名(米国,旧ソ連,ロシア,日本)を超えた。日本人も15名を数えている事を踏まえ,NASAの半世紀後の目標は火星有人探査,日本の目標は月面有人活用面と開拓であり,その道を歩んでいる。
 暗黒物質・エネルギーとは暴力団・マフィア・ギャングを連想するが,実は宇宙物質に付けたニックネームでビックバン宇宙理論である。宇宙にある全元素の起源を説明出来ると考えていた時期もあったが,現実の宇宙空間物質は元素だけでなく,元素以外に正体不明物質が存在する。その正体不明物質は発光したり光を吸収する事は全く無く,物理学の範疇を超えているので「暗黒物質」「ダークエネルギー」と呼ばれる未知の物質である。ダークマターは光や電波で観測できず,直接観察・証明は不可である。しかしながら,重力によりダークマター周りの物質が引寄せられる。この強い重力源から,存在が間接的に判明出来る。
 ダークマターの存在は1930年,昭和初期にスイスの天文学者により唱えられた説である。宇宙には銀河集団があり,1つの銀河の運動は重力によって保たれた。銀河の運動を詳しく調べると銀河全体の質量は銀河総量の1/400であり,銀河に含まれる星やガス状の総質量よりも遥かに重く,このことが,正体不明の物質・ダークマターの存在を示す。最近では光が重力によって曲げられる事で生じる「重力レンズ効果」によってダークマターがどの様な形で宇宙空間に広がっているのかも段々に分かって来ている。宇宙には我々人間が知らないダークマターが大量に存在し,我々が宇宙全体の物質を理解するには今後も多くの時間が必要と思われる。
 ダークマターが解明されていない現在,他にも大きな疑問がある。それは,ダークエネルギーである。宇宙の中にある物質の総量を測定することが宇宙論の中心であるが,宇宙の運命を左右するダークエネルギーも重要因子で,現実の宇宙は膨張を加速させている。この事は通常の万有引力とは違う「得体の知れない力」が宇宙に働いている事を示しているからである。ダークエネルギーに対し,私達の知っている物理学は全く通用せず,物理学の中でこれ程深刻な問題は無いと言われている。
 ヒッグス粒子は他の素粒子と異なり真空中の全宇宙に存在し全ての素粒子に質量を与える役目を持っている。この役目は,他の素粒子の性質を決定付ける特別な存在である。
 2012年7月,ヒッグス粒子と見直される新素粒子が発見され一大出来事と大きく報道された。ヒッグス粒子は質量の起源とされているので,その発見は他の素粒子の発見とは異なり物理学の歴史に置いて途轍も無く大きな意味がある。ヒッグス粒子の作用で他の素粒子が質量を持つ事により多様な宇宙や地球が存在可能と成っているので,この事は新物理学法則がある事を示す強い示唆を示している。
 現在のグローバル・サイエンスは「マクロの世界」より「ミクロの世界」となり,マクロの単位は最小物質単位が原子で四次元の世界(上下軸,左右軸,斜目軸そして時間軸),ミクロの単位は原子より更に小さい単位で素粒子の量子力学の世界となる。
 マクロのニュートン力学とミクロの量子力学の架橋となる物に磁気がある。近年急速に進歩してMRI(磁気共鳴画像装置),磁気心電図,磁気脳波計が開発進行中であるが,多くの医師がMRIは磁気検査機器である事を知らないのが現状で,量子力学も次第に医学に侵入し,その波動エネルギーを利用したドイツの波動医学,日本の水素医学も展開されようとしており,半世紀後には量子力学がどの様に医学に反映されるか楽しみである。

 本書を書くに当たり,下記の著書を参考にすると共に一部引用した。

1) 浅井祥仁:ヒッグス粒子の謎。祥伝社,東京,2012.
2) 土居 守,松原隆彦:宇宙のダークエネルギー「未知なる力」の謎を解く。光文社,東京,2011.
3) 渡部潤一:夢の宇宙開拓全史。スコラマガジン,東京,2011.
4) 福江 翼:生命は,宇宙のどこで生まれたのか。祥伝社,東京,2011.
5) 村山 斉:宇宙は何でできているのか。幻冬舎,東京,2010.
6) 嶺重 慎,小久保英一郎:宇宙と生命の起源─ビッグバンから人類誕生まで。岩波書店,東京,2004.
7) 中嶋 彰:現代素粒子物語。講談社,東京,2012.
8) 日本放射光学会:放射光が解き明かす驚異のナノ世界─魔法の光が拓く物質世界の可能性。講談社,東京,2011.
9) 竹内 薫:2035年 火星地球化計画。角川学芸出版,東京,2011.
10) 多田順一郎:放射線・放射能がよくわかる本。オーム社,東京,2011.


連絡先:〒158-0083
    東京都世田谷区奥沢2-2-23
    菊地クリニック
    菊地 宏和
    TEL:03-3725-2077
    FAX:03-3725-2077