宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 109, 2012

ランチョンセミナー

廃用症候群の実態とその対策

金 憲経

東京都健康長寿医療センター研究所

Prevalence and strategy for prevention of geriatric syndrome

Hunkyung Kim

Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology

高齢期には必ずしも,病気とは言い切れないような障害,即ち虚弱,認知機能の低下,転倒·骨折,失禁,低栄養,痛みなど廃用症候群と呼ばれる徴候が出現しやすい時期でもある。今日のランチョンセミナーでは,廃用症候群の実態とその対策や効果·課題について紹介する。
 1. 筋肉減少症予防の実態と対策
 サルコペ二アとは,加齢に伴う骨格筋量の減少や筋力の衰えを意味する言葉として1989年以降使用され,老年医学分野で最も関心の高いトピックスである。演者は,サルコペニアと密接に関わっている不活動を解消するために運動指導を,筋タンパク質の合成を促進するために必須アミノ酸補充を行い,その効果を調べたところ,サルコペニア予防策としては「運動+栄養」の支援がより効果的であることを実証した。
 2. 膝痛の実態と対策
 高齢者の多くが有する膝痛は移動能力の制限,生活機能低下,転倒,転倒恐怖感の上昇と強く関連する。演者が調べたデータによれば,膝痛の有症率は男性より女性で高く,女性膝痛者は体重が重く,脂肪量が多く,歩行速度が遅いとの特徴を示した。さらに,膝痛者は過去1年間の転倒率や転倒恐怖感,尿失禁の有症率も高かった。膝痛者の痛み解消を目的とした3カ月間の運動及び温熱療法を用いた包括的介入効果を検証したところ,運動に温熱療法を加えることによって,痛みの解消や体力の向上に相乗効果が観察された。
 3. 転倒の実態と対策
 介護が必要となった主な原因である骨折には骨脆弱性と転倒が大きく関わっている。高齢者転倒の多くは「歩行中のつまずき」によって発生することから,つまずきの原因である「すり足」を改善するためには「前脛骨筋」の鍛えがポイントである。また,高齢者の転倒予防のためには運動介入が有効であるが,介入不参加者に転倒率や骨折率の高いことが確認され,介入不参加者に対する対策の確立が課題と言える。
 4. 尿失禁の実態と対策
 尿失禁の治療法の中で,行動療法は,危険性や副作用がなく,改善率が高いことから1次治療法として勧められる。今日までに骨盤底筋運動の効果については多く実証されている。一方,肥満が尿失禁の危険因子と指摘され,演者は骨盤底筋運動+腹部脂肪減少運動に温熱シートを採用する複合介入を行ったところ,運動に温熱シートを加えると尿失禁のタイプに関係なく高完治率が観察され,有効な対策であるとの知見を得た。