宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 104, 2012

宇宙航空医学認定医セミナー

「航空身体検査基準の国際比較─日米を中心に─」

1. 循環器疾患とその健康管理

久田 哲也

グロリア会前田病院

Aeromedical Disposition for Cardiovascular Disease

Tetsuya Hisada

Maeda Hospital

航空業務従事者が航空業務の不合格疾患に罹患すると,管轄する組織はウェーバー審査(航空自衛隊では医学適性審査と呼称)を実施し,航空業務の可否について判定する。循環器疾患の診断,治療は,冠動脈疾患や不整脈に対するカテーテル治療など近年急速に進歩してきた。また,Brugada症候群などのように近年に定義された疾患もでてきた。このように複雑化する循環器疾患に対する航空医学的な審査のより標準化を目指すことは重要である。
 我々は米空軍のウェーバー審査会の循環器専門医との共同研究で航空自衛隊と米空軍における循環器疾患の取り扱いの相違点を検証した。その結果,1)非持続性心室頻拍症の取り扱い,2)頻脈性不整脈に対するカテーテルアブレーション後のフォローアップの方法,3)心房細動におけるβブロッカーアテノロールの使い方,4)パイロットの虚血性心疾患に対するインターベンションの適応の点で共同研究当時は少し差を認めたものの,航空自衛隊と米空軍における本疾患の取り扱いは多くの部分で共通していることが明らかとなった。
 一方で,冠攣縮性狭心症など欧米人と比べて日本人に多い疾患群では欧米のガイドラインなどにはほとんど記載がないものがあり,審査に苦慮することもある。
 このように診断及び治療法が日々進歩して複雑化する循環器疾患に対する航空医学的取扱いについて,米空軍のみならず関係する各組織間で今後も情報交換を行っていくことが重要である。