宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 103, 2012

宇宙航空医学認定医セミナー

「航空身体検査基準の国際比較─日米を中心に─」

航空身体検査基準の国際比較─日米を中心に─

緒方 克彦1,藤田 真敬2

1防衛医科大学校
2防衛医科大学校 防衛医学研究センター 異常環境衛生研究部門

A comparison study of standards for aeromedical certificate between Japan and United States of America

Katsuhiko Ogata1, Masanori Fujita2

1National Defense Medical College
2Division of Environmental Medicine, National Defense Medical College Research Institute

パイロットの航空身体検査基準については,航空法第1条に国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization: ICAO)に準拠することと定められており,航空法施行規則等の下位規定の中に示す基準に沿って厳格に管理されている。防衛省·自衛隊においても同様に,自衛隊法,防衛省訓令等の中で基準を明記し運用されてきた。基準は航空機の発達や医療技術の向上,各種治療法の増加に伴い数年ごとに変更されるのが常である。前者の例としては筋力 (握力)基準の撤廃,後者は気腫性肺胞の一部容認などの例が挙げられる。
 一方パイロットは養成に多くの時間と経費を必要とし,優秀な経験あるパイロットは安全を担保する重要な要素でもある。そのため或る一定の疾患については,合併症や使用薬剤による副作用が無いこと等を条件に,審査会での審査を経た上で所轄大臣が適合と判定する“ウェーバー(Waiver)”制度を各国航空局や軍隊では設けている。我が国でも国土交通省·防衛省において同様の制度や常設の審査会を設置している。
 どの疾患のどのような状態をウェーバーの対象とするのか,またどのような条件で適合とするかICAOは示していないため,基準自体とは異なり国別の考え方の相違がある。つまり医療の進歩や航空機開発によって変動する“基準が揺らぐ”部分に差異が生じやすいため,この箇所に焦点を当て考え方の違いを探求することが将来の基準の改定に繋がるものと考えている。
 今回は航空身体検査関連の知見が豊富な米国と我が国の基準,即ち国土交通省航空局(Civil Aviation Bureau:CAB)と米連邦航空局(Federal Aviation Administration:FAA),航空自衛隊(Japan Air Self-Defense Force:JASDF)と米国空軍(United States Air Force USAF)を比較検討することをテーマとし,判定業務に精通した先生方から背景にある考え方や根拠について解説していただくこととした。各分野については,1)循環器疾患,2)気分障害(特にうつ病),3)妊娠·出産に関わる飛行停止,の3分野に加えて,日本が独自に設定している4)加齢乗員の検査基準,5)航空患者搬送基準についてもご紹介いただく。