宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 88, 2012

一般演題

30. 放物線飛行中のOcular counter-rollingに対する重力と視覚情報の影響

和田 佳郎1,金子 寛彦2,平田 豊3

1奈良県立医科大学 生理学第一講座
2東京工業大学大学院 総合理工学研究科 物理情報システム専攻
3中部大学 工学部 情報工学科

Effects of gravity with/without visual information on ocular counter-rolling during parabolic flight

Yoshiro Wada1, Hirohiko Kaneko2, Yutaka Hirata3

1Department of Physiology I, Nara Medical University
2Department of Information Processing, Tokyo Institute of Technology
3Department of Computer Science, Chubu University College of Engineering

【目的】 放物線飛行を利用して,頭部傾斜によって誘発されるOcular counter-rolling(OCR)に対する重力および視覚情報の影響について検討した。
 【方法】 実験は健常成人4名を対象に,航空機内で被験者を座位にて体幹を固定し,放物線飛行中のmicro-G,その前後のhyper-G (1.8 G, 1.5 G)という各種重力環境下(約20秒間)において,3種類の頭部傾斜条件(直立,左および右20度の静的roll傾斜)と2種類の視覚条件(暗所,明所)を組み合わせた6種類の実験条件下でOCRを測定した。また,地上にて1Gコントロール実験を実施した。OCRの測定はヘッドマウント型眼球運動測定装置(EyeSeeCam,ドイツ)の赤外線カメラにて撮影した眼球画像から,虹彩紋理を手がかりとして手動にて眼球回旋角度を解析した。頭部傾斜角度を横軸,OCRを縦軸として結果をプロットするとほぼ直線となることから,近似直線のslopeの符号を逆にしたものをOCRゲインとしてあらわした。
 【結果】 OCRゲインの平均±標準偏差は,暗所ではmicro-Gで0.01±0.04,1 Gで0.19±0.08,1.5 Gで0.17±0.12,1.8 Gで0.19±0.11,明所ではmicro-Gで0.01±0.06,1 Gで0.17±0.05,1.5 Gで0.18±0.05,1.8 Gで0.21±0.08であった。すなわちOCRゲインは視覚情報の有無に関わらずmicro-Gでほぼ0となったが,過重力では1 Gとほとんど差が認められなかった。
 【考察】 1)視覚情報がない条件では,OCRはmicro-Gでは重力の影響を受け反応はほぼ消失したが,過重力ではほとんど影響を受けなかった。これは1 Gを境にOCRに対する重力の影響が異なることを示している。2)いずれの重力環境下においても視覚情報はOCRに影響を与えなかった。micro-Gでは代償的にOCRに対する視覚の関与が大きくなると思われたが,予想外の結果であった。3)今回の航空機実験によりOCRに対する20秒間という短時間の重力および視覚情報の影響が示されたが,長期宇宙滞在中の実験によりmicro-Gでの経時変化を明らかにしていく必要がある。