宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 86, 2012

一般演題

28. 航空事故におけるコミュニケーション齟齬分類の試み

垣本 由紀子

日本ヒューマンファクター研究所

A trial of Classify for Communication Errors in Recent Aircraft Accidents in Japan

Yukiko Kakimoto

The Japanese Institute of Human Factors

【はじめに】 わが国においては,死亡を伴う航空機事故は,1985年に発生したJAL 123便の御巣鷹山衝突事故以来発生していない。ANAでは,さらに長く,1971年発生の自衛隊機との衝突事故以来,41年間死亡事故ゼロを継続してきている。しかし,事故件数がゼロであった年はない。これらの事故原因の中で,最も高い割合を占めているのが「操縦」である。操縦の内容分類は公的には行われていないが,ここでは,コミュニケーション齟齬で発生した事故や重大インシデントの中,パイロットと航空交通管制官との通信による音声コミュニケーション齟齬を取り上げ考察を試みる。コミュニケーションには,必ず情報の発信者と,情報の受け手が存在している。従って,ヒューマンエラーは,パイロット側と管制官側双方が関ることになり,どちらかに偏るのではなくフィフティフィフティで発生すると言われている(L. Connell, 1996)。そこで,ここでは,航空事故原因のうち,コミュニケーション齟齬に起因する事例から齟齬の内容分類を試み,分類のあり様について考察する。
 【方法】 2001年から2010年の間発生した事故·重大インシデントの中で,コミュニケーション齟齬が関連したと思われる事例を対象に発生機序について分析した。両者のエラー内容は,前述Connellの記述をベースに,筆者が修正整理したものを用いた。
 【結果】 具体的事例を取り上げ何故それが発生したかを分析する。《事例1》 2001年1月31日に発生したニアミス事故は,エラー分類では,《意図とは異なる言い違い》に相当する。B機というつもりが,A機のコールサインを発したことにより,両機が共に降下を始めたことによりニアミスが発生した。またこの事例では,コンピュータの指示に従うか,また,管制官の指示に従うかの問題を提起した。《事例2》伊丹空港で発生した重大インシデント(2009.3.25)は,エラー分類では,パイロット側が,《許可が出ていないのに許可が出ているものと受け取る》エラーが発生した。類似しているコールサインの航空機が同時に存在していた。ANA18便とANA181便とである。パイロットは互いに類似便が存在していることを知らず管制官もそれを伝えていなかった。《事例3》羽田空港で発生した重大インシデント(2005.4.29)は,パイロット側が,《内容が疑わしいコミュニケーションを確認しないことのエラー》であった。新千歳空港を出発する際は,羽田空港滑走路34Lは,閉鎖と聞いていたが,管制官から着陸許可が出たため,おかしいなと思いつつ,「Run way 34L ?」と聞きなおしているが,管制官には,疑問形とは受け取られず,結果として閉鎖されている滑走路に着陸した。
 【まとめ】 これらは数例にすぎないが,管制官側,パイロット側,双方でエラーは発生しており,齟齬内容をどの様に分類するか試み的に実施してみた。事故原因を「操縦」という一言で片づけられていた内容を,コミュニケーション齟齬に関して分類を試みたが,十分ではない。再発防止の観点から,今後とも継続して検討の予定である。