宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 85, 2012

一般演題

27. 国際線航空機内における医療行為に関する統計

桑原 洋一,松井 和隆,島田 敏樹,飯田 里菜子,鍵谷 俊文,田村 忠司,前田 宏明,五味 秀穂

全日本空輸

Statistics of medical behaviors in the international flight cabin

Yoichi Kuwabara, Kazutaka Matsui, Toshiki Shimada, Rinako Iida, Toshibumi Kagiya, Tadashi Tamura, Hiroaki Maeda, Hideho Gomi

All Nippon Airways

【背景および目的】 国際線においては飛行時間が長いこと,海上の飛行が多いことから,機内で急病人が発生しても短時間で着陸できないことが想定されるため,機内での医療設備の整備,乗務員の医療訓練がなされている。本研究では,国際線機内における急病人発生の頻度,医療従事者の応需の有無,疾病内容,使用薬剤,使用機器の頻度を検討し,現在の対応について考察する。
 【対象】 2009年4月から2012年3月までの期間にANAグループ国際線においておこなわれた医療行為に関する集計をおこなった。
 【結果】 3年間で264の事象があり,内219にDoctor Callがおこなわれた。Doctor Callに対して81%の呼応があり,医師が応じたのは58%であった。症状は一過性意識低下がもっとも多く,呼吸困難,転倒外傷が続いた。Doctors kit内の医薬品は,維持点滴薬が多く使用されたが,その他大半の薬品が使用されている。子宮収縮薬,ニフェジピンカプセル,ジゴキシンが使用されなかった。AEDは10回装着されたが,心室細動や頻拍は発生しておらず除細動はしていない。Resuscitation Kitは24回使用されたが,パルスオキシメーターが主な目的であったが,液体吸引機が続き,気管内挿管器具は1度使用された。
 Resuscitation Kitではエアウエイ,異物除去機が未使用であった。Medical Bag内の簡易医薬品は頻度は低いが,頭痛,腹痛に対しての薬剤が使われた。Medical Kit内の医療器具は,血圧計,聴診器,体温計が頻回に使用された。アンビューバッグによる呼吸アシストは10回行われている。
 【総括】 国際線機内においては,飛行高度が高く,低血圧,低酸素分圧による意識障害,呼吸困難などの症状が比較的多かった。Doctor Callには8割強の応需があり(医師は58%),搭載医薬品,医療品はその多くが使用されていた。ニフェジピンカプセルや子宮収縮剤など搭載が義務づけられている薬剤でも使用のないものがあり,一部再検討が必要と考えられた。