宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 83, 2012

一般演題

25. 低圧環境における人工呼吸器の作動試験について

蔵本 浩一郎,吉村 一克

航空自衛隊 航空医学実験隊

The performance of mechanical ventilator in hypobaric environments

Koichiro Kuramoto, Kazuyoshi Yoshimura

Aeromedical Laboratory, Japan Air Self Defense Force

【はじめに】 航空機による患者搬送においては,与圧された航空機であっても低圧環境は不可避であり,搬送時に使用する医療機器が設定どおりに作動しない恐れがある。特に人工呼吸器は,低圧環境の影響が大きいと考えられる。本研究では,人工呼吸器を低圧環境下で作動させ,換気量及び吸気圧を測定し,低圧環境の影響を調査した。
 【方法】 試験に用いた人工呼吸器は,パルモネティックシステムズのLTV 1000及びLTV 1200並びにドレーゲルメディカルのOxylog 3000の3機種とした。換気量及び吸気圧の測定方法は,人工呼吸器に医療用酸素ボンベと呼吸回路を接続し,圧力計及び流量計を呼吸回路とテストバッグの間に接続して行った。試験は従圧式換気(以下PCV)と従量式換気(以下VCV)の2つのモードで行い,呼吸数を毎分12回とし,PCVでは吸気圧力を36 cmH2Oに,VCVでは一回換気量を500 mlに設定した。試験高度は,LTV 1000とLTV 1200が地上,4,000 ft,8,000 ft,12,000 ftとし,Oxylog 3000ではそれらに加えさらに15,000 ft,18,000 ftとし,各高度において5分間測定した後に次の高度へ移行して測定を行った。またLTV 1000については,作動時に表示される吸気圧及び換気量を記録し実測値との比較を行った。
 【結果】 PCVにおける吸気圧の値は,LTV 1000とLTV 1200では8,000 ftまでは機器の精度内(2 cmH2O)で設定値を維持したが,12,000 ftでは31 cmH2Oまで低下した。一方,Oxylog 3000は,高度の変化の影響を受けず設定値を維持した。VCVにおける一回換気量の値は,LTV 1000では12,000 ftまで精度内である設定値の10%以内だった。LTV 1200は4,000 ftまで精度内である設定値の10%以内,8,000 ftでは設定値を約15%超過したが,12,000 ftでは4,000 ftのときと同程度まで低下した。Oxylog 3000は,15,000 ftまでは精度内である設定値の10%以内を維持したが,本機器の使用可能高度である15,000 ftを超えた18,000 ftでは設定値の26%まで増加した。LTV 1000で行った実測値と表示値の比較では,PCVにおいては全ての高度において,実測値と表示値の差は表示値の精度内の2 cmH2O以内であったが,VCVにおいては,地上及び4,000 ftで10%以下,8,000 ftで14%,12,000 ftで28%の差が生じ,いずれも表示値の方が実測値よりも低くなっていた。表示値の精度は15%となっているため,12,000 ftでは精度外となった。
 【考察】 LTV 1000及びLTV 1200は外気を取り入れ,内部のタービンで圧力を上げて換気を行っているため,周囲気圧の影響を受けやすいことが考えられる。一方Oxylog 3000は高圧酸素を圧力源として,減圧することで換気を行っているため,周囲気圧の影響を受けにくいと考えられ,これらの結果から,駆動方式の違いが低圧環境下での性能の違いとなっている可能性が示唆された。また,LTV 1000のみの結果ではあるが,人工呼吸器の表示値と実測値の間に差が生じる場合もあることから,呼吸器の表示のみによる患者管理には,リスクが生じる恐れがあることが示唆された。
 【結論】 換気モード及び機種毎の作動方式の違いにより,高度変化に伴う気圧低下の影響が異なることが判明した。したがって,航空患者搬送においては,搬送時の高度に応じた補正能力を有する機種を使用することが望ましく,さらに航空患者搬送に携わる場合には,人工呼吸器の高度による動作特性を把握しておくことが重要だと考えられる。