宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 81, 2012

一般演題

23. 航空機の除染と患者空輸に関する国際指針

藤田 真敬1,山本 頼綱1,立花 正一1,金谷 泰宏2,緒方 克彦3

1防衛医科大学校 防衛医学研究センター 異常環境衛生研究部門
2国立保健医療科学院 健康危機管理研究部
3防衛医科大学校

International guideline for decontaminating aircraft and management for contaminated evacuee

Masanori Fujita1, Yoritsuna Yamamoto1, Shoichi Tachibana1, Yasuhiro Kanatani2, Katsuhiko Ogata3

1Division of Environmental Medicine, National Defense Medical College Research Institute
2Department of Health Crisis Management, National Institute of Public Health
3National Defense Medical College

東日本大震災に続いた福島第一原子力発電所事故においては,我が国の総力を挙げた対応が行われた。その対応において米軍,米研究機関の支援と専門的助言が大きく影響したといわれている。我が国の放射線災害への対応については指針や情報の普及が限定されていたため,東日本大震災と福島第一原子力発電所事故に対応において少なからず混乱を引き起こした。航空機の除染,初動対応者,医療従事者の防護,患者空輸など航空医学に関連する諸問題は災害時に我々が直面する大きな問題の一つである。我が国のみならず,我々の居住するアジアは世界における原子力発電所の過密地域の一つであり,引き続き緊急時の対策を要する分野である。
 我が国において,これら諸問題の対応指針は,放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センターや財団法人原子力安全研究協会などの一部の組織が関連教育や情報普及に努めている。海外においては米国連邦航空局(FAA),欧州航空協会(AEA),国際民間航空機関(ICAO)世界保健機構(WHO),米国疾病対策予防センター(CDC)や米国防省·軍,北大西洋条約機構(NATO)など多くの組織があらゆる想定して幅広い指針を公開している。汚染源となる放射性元素が異なる場合にベクレル,シーベルトなどの単位換算が必要な状況が多々生じたが,米国防威嚇緩和機関(DTRA)から換算表を含む資料も公開されている。
 災害時の放射線汚染を伴うご遺体の取扱い指針はCDCから公開されており,ご遺体の管理全般については全米保健機構(PAHO)が指針を公開し,その一部は国立保健医療科学院が和訳公開している。
 バイオテロ,化学テロにおける公共施設再開の指針についても既に指針が公開されている。空港勤務者の安全確保に医療関係者が関わらなければ成らない領域であろう。
 放射線,化学事故における病院の準備態勢についえは米労働安全衛生局(OSHA)が指針を出し,我々のチームで和訳公開を準備中である。
 CBRNE (Chemical:化学,Biological:生物,Radiological:放射線,Nuclear:核,Explosive:爆発の頭字語)災害における患者発生時の患者治療のマニュアルは市販され世界中で入手が可能である。
 このように国際機関や米国の専門機関からは広く情報が公開され専門家,初動対応担当者の間で情報が普及し共有されていることを伺い知る。これらの国際指針の中から,特に航空機の除染や患者空輸に関するものを紹介する。体系的な情報の普及と共有により今後の我が国の災害対応がより強固になるものと考えている。