宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 79, 2012

一般演題

21. 腎機能に及ぼす姿勢変換および水中ウオーキングの影響

鈴木 政登

東京慈恵会医科大学 臨床検査医学

Effect of changes of posture and walking in water on renal function

Masato Suzuki

Department of Laboratory Medicine, The Jikeikai University School of Medicine

【はじめに】 近年のわが国の慢性腎疾患患者数は1,926万人で,人口あたり血液透析患者数は世界一であり,とくに糖尿病性腎症由来患者および高齢者の増加が顕著である。これらでも運動は必要であるが,運動は腎の機能的·器質的負担を高める。そこで,本研究では腎機能への負担が少ないと思われる水中ウオーキングの影響を検証した。
 【実験1】 腎機能に及ぼす姿勢変換の影響
 健康男性10名を対象とし,仰臥位,立位,椅座位姿勢を順序無作為に其々1時間維持させ,レニン-アンギオテンシン-アルドステロン(RAA)系および腎機能への影響を調べた。
 仰臥位姿勢時の測定値を基準にすると,立位収縮期血圧は有意(p<0.05)に低下し,心拍数(HR)は有意に上昇した。血漿量変化(%儕V)は立位で8.9%,椅坐位で5.5%低値を示した。一方,血漿アドレナリン,ノルアドレナリン(pAd,pNorad),レニン活性(PRA),アルドステロン(pAld)およびアンギオテンシンII(pAII)濃度は仰臥位姿勢に比較し,立位時に有意な上昇を示した。仰臥位姿勢時に比較し,立位姿勢時には尿量 (UV) およびクレアチニンクリアランス (Ccr)が有意に減少したが,アルブミン排泄量 (Ualb) は影響を受けなかった。
 【実験2】 腎機能に及ぼす水中ウオーキングの影響
 健康男性8名を対象とし,陸上 (室温25.1°C) および水中(水温30.0°C)で歩·走行運動を其々30分間負荷し,RAA系および腎機能への影響を調べた。運動強度は陸上運動での最大酸素摂取量(VO2max)を基準に其々40,60%相当強度とした。対照実験として陸上および水中で立位姿勢を30分間維持させた。水位は剣状突起位とした。水中運動には流水プール,陸上ではトレッドミルを用い,呼気ガスおよび心拍数を連続記録した。
 運動負荷の対照実験として,陸上と水中で其々30分間立位姿勢を維持させた。浸水対照実験時にはUVやNa排泄(UNa)が増し,pAd,pNorad,pAIIおよびpAld濃度は低下傾向にあったが,Ccrや尿浸透圧には差異はなかった。しかし,陸上の椅座位から立位変換後にこれらのホルモン全てが有意に上昇し,UVやUNaは低下した。このような姿勢変換応答の相違は40% VO2max相当強度の陸上と水中ウオーキング後にも認められた。しかし,60% VO2max相当強度の運動では陸上と水中運動後のpAd,pNorad,AII濃度の上昇程度の差は僅少となった。60% VO2max相当強度の運動後のpAld濃度には陸上と水中運動間では有意差は認められなかった。それでも水中ウオーキング後の腎尿細管Na再吸収率は陸上ウオーキングに比較し有意な低値であった。
 【結論】 水中での運動は強度が十分に低ければ(40% VO2max,6.3 Mets程度),浸水による交感神経系,内分泌系抑制および水·電解質排泄促進効果を維持したまま運動遂行が可能である,と考えられる。一方,水中で最大運動を負荷した場合,陸上最大運動に比較し,血漿カテコールアミン,pAld,AII濃度上昇が僅少であり,腎臓への負担も少ないと思われる。したがって,水環境を利用した運動は交感神経系亢進状態の者や体液保存的傾向にある高血圧症,肥満者および軽症腎症患者の運動として望ましい,と思われる。