宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 78, 2012

一般演題

20. 糖転移ヘスペリジン摂取は下腿部の浮腫を軽減させる

宅見 央子1,西村 直記2,岩瀬 敏2

1江崎グリコ株式会社 健康科学研究所
2愛知医科大学 生理学

Preventive effects of intake of α-glucosylhesperidin on the edema of the lower leg in human

Hiroko Takumi1, Naoki Nishimura2, Satoshi Iwase2

1Institute of Health Sciences, Ezaki Glico Co., Ltd
2Department of Physiology, Aichi Medical University

【背景·目的】 ヘスペリジンとは,柑橘類に含まれるフラボノイドの一種で,ビタミンPとも呼ばれる。Pは permeability(浸透性)の頭文字に起源するように,ヘスペリジンは,古くから毛細血管の過度な浸透性の予防作用のあることが知られている。しかし,へスペリジンは,水に溶けにくい性質をもつため,体内への吸収性が低いという欠点がある。この欠点を克服したのが,ヘスペリジンにグルコースを酵素反応で結合させた「糖転移へスペリジン(Hsp-G)」である。Hsp-G は,ヘスペリジンに比べて水溶性が1万倍以上高まり,体内への吸収性も3倍以上高まっているので,浮腫予防作用が期待できる素材である。
 長時間のフライトで座席に座り続けた場合,下肢に血液が貯留し下腿部に浮腫が認められる。これがエコノミークラス症候群(急性肺動脈血栓塞栓症)を誘導する引き金となることが知られている。そこで,本研究は,Hsp-Gを含む飲料に下腿部の浮腫を改善する効果があるか否かについて検討した。
 【方法】 健常成人女性9名(年齢:43.4±2.6歳)を対象とした。実験は,室温26°C,相対湿度50%に設定した人工気候室内にて,長袖シャツと短パンを着用させて行った。対象者にインピーダンス測定用表面電極(第I趾節骨上と足底から膝蓋骨間の1/2の位置)を装着した後,椅座位姿勢で下腿部(足底から膝蓋骨間の1/2の位置)および足関節の上部(足底から膝蓋骨間の1/4の位置)周囲長を測定した。続いて長座位姿勢で20分間の安静を保たせた後,再び椅座位姿勢をとらせ,試験飲料100 mLと水100 mLを摂取させた。試験飲料摂取後は6時間後まで椅座位姿勢で安静を保たせた。その間,試験飲料摂取2時間後と4時間後にそれぞれ水200 mLを摂取させ,水摂取後に排尿させた。実験中,インピーダンスと皮膚血流量は連続測定し,下腿周囲長は30分毎に測定した。試験飲料は,Hsp-G飲料およびプラセボ (P)飲料の2試行をランダムに実施した。両飲料に味料,酸味料,香料を同様に添加し,Hsp-Gの有無が被験者にわからないように調整した。
 【結果および考察】 9名の対象者の内,トイレに行く際の立位歩行時にインピーダンス値の回復(浮腫の軽減)が見られた6名の対象者について分析を行った。飲料摂取前に対する飲料摂取6時間後の下腿部インピーダンスの低下は,Hsp-G 飲料摂取時でP飲料摂取時よりも抑制される傾向がみられた(p=0.053)。また,足関節周囲長(Hsp-G : 101.8±1.5% vs P:103.3±0.8%, p=0.004)および下腿周囲長(Hsp-G 101.4±0.7% vs P :102.9±1.3%, p=0.043)の増加は Hsp-G 飲料の摂取により有意に抑制されたことから,浮腫による毛細血管から間質への過剰な液体の透過性が抑制されたものと推察された。数名の対象者では,Hsp-G摂取6時間後においてもサーモグラムによる皮膚温の上昇が認められた。
 【結論】 長時間の椅座位により引き起こされた下腿部の浮腫は,Hsp-Gにより軽減できることが明らかとなったことから,Hsp-Gがエコノミークラス症候群を予防する一助となる可能性が示唆された。