宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 77, 2012

一般演題

19. 低湿度室内で発生される微細水分粒子(mist)による皮膚潤い効果と皮脂挙動の関係について

大野 秀夫,西村 直記,岩瀬 敏,菅屋 潤壹

愛知医科大学 生理学講座

Effects on hydration and sebum levels of facial skin by mist at dried room

Hideo Ohno, Naoki Nishimura, Satoshi Iwase, Junichi Sugenoya

Department of Physiology, Aichi Medical University

【背景および方法】 空調時の室内で発生させた微細水分粒子(ミスト)が皮膚の乾燥を防ぐとともに潤いをもたせる可能性について実験的に検討した。冷房時および暖房時を想定した場合,皮膚が乾燥に対して季節によって異なる反応をする可能性がいくつかの論文で報告されている。筆者らは冬季(2〜3月)および夏季(7月)に健康な8名の40歳代女性を対象に24°C,相対湿度35%の人工気候室で120分間滞在時の前額(中央),外眼角,頬(頬骨の上)の皮膚コンダクタンス(Skicon-200EX,IBS社,Japan),TEWL(VapoMeter,Dolfin社,Finland)および皮脂量(Sebumeter, Courage and Khazaka社,Germany)を測定した。被験者が実験室へ入り着替え,生理反応測定センサー装着後2時間の順応期を経て初回の測定を行い,以降30分毎に計5回実施した。
 【結果】 1)皮脂量:冬期は夏期より多かった(外眼角p<0.05;頬p<0.01)。2)TEWL:冬期は夏期より多い傾向が見られた(外眼角p=0.06;頬p=0.051)。3)皮膚コンダクタンス:夏期が冬期より多かった(前額p<0.05;外眼角p<0.05)。
 【検討】 TEWLと皮膚コンダクタンスの結果から冬期の皮膚バリアの脆さが示される。しかし,皮脂量は冬期に多いという結果は関連研究と必ずしも一致しない。しかも皮脂量の多い冬期にバリアが弱いという関係は通常の解釈が当てはまらない。一般に,皮脂は皮膚表面で汗とエマルジョン化して皮脂膜を形成し,バリア効果を高めるものであり,今回の実験環境のように汗をかかない条件下では皮脂はバリア効果を果たすに至っていないと思われる。むしろ,日々の冬期の屋外の寒冷刺激による皮膚のターンオーバー亢進により角質細胞が小型化していることがバリア低下に支配的だったと思われる。冬期の空調による乾燥環境ではミストが汗の代わりを果たしてバリアを高める可能性が考えられる。