宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 74, 2012

一般演題

16. 遠心人工重力装置によるGz方向の過重力負荷が中心血液量および動脈圧受容器心臓反射機能に及ぼす影響

柳田 亮,小川 洋二郎,青木 健,曷川 元,岩崎 賢一

日本大学 医学部 社会医学系 衛生学分野

Spontaneous baroreflex function during mild +Gz hypergravity by short-arm human centrifuge

Ryo Yanagida, Yojiro Ogawa, Ken Aoki, Hajime Katsukawa, Ken-ichi Iwasaki

Division of Hygiene, Department of Social Medicine, Nihon University School of Medicine

【背景】 長期の宇宙滞在においては,微小重力環境の影響を受けて,心循環系の機能低下,筋萎縮,骨密度の低下などの様々な宇宙デコンディショニングが問題となる。遠心人工重力装置は,遠心力による過重力負荷を加えることで,その微小重力環境の悪影響を効率的に予防する方法として期待されている。しかしながら,遠心人工重力装置による過重力負荷は,血液分布を下方にシフトし,中心血液量を減少させ,動脈圧受容器心臓反射機能を減弱させる可能性がある。本研究では,+1.5 Gzの過重力負荷が中心血液量と動脈圧受容器心臓反射機能に及ぼす影響を評価した。
 【方法】 健康男性被験者16名を対象とし,心電図,非観血的連続血圧計,カプノメーターを装着し,心電図波形,動脈圧波形,カプノグラムを記録した。中心血液量は一回心拍出量を測定することで評価した。一回心拍出量はModel Flowアルゴリズム(Beat Scope Ver. 1.1a)により算出した。また,動脈圧受容器心臓反射機能は血圧と心拍の自発変動から伝達関数解析とシークエンス法を用い算出した。遠心人工重力装置(半径1.7 m)のキャビン内にて15分間の座位安静後にBaseline Dataを6分間測定した。その後,回転 (24回転/分)を開始し,1.5 Gzの過重力負荷を21分間負荷し,最後の6分間をデータとして解析した。
 【結果】 一回心拍出量は有意に低下した(88.3±20.0→79.6±24.6 ml,P=0.025)。さらに動脈圧受容器心臓反射機能の評価指標も有意に低下した(伝達関数解析GainHF: 22.2±7.5→12.4±3.5 ms/mmHg,P=0.01,GainLF: 14.4±2.2→10.1±1.1 ms/mmHg,P=0.004,シークエンス解析:18.9±2.5→12.9±1.6 ms/mmHg,P=0.001)。
 【考察】 Gz方向の過重力負荷により一回心拍出量は低下し,中心血液量が減少したと考えられた。それに伴い動脈圧受容器心臓反射機能が減弱することが伝達関数解析とシークエンス法の両手法で示された。
 【結語】 遠心人工重力装置を使った+1.5 Gzの過重力負荷は中心血液量を減少させ,それに伴い動脈圧受容器心臓反射機能を減弱させると考えられた。