宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 73, 2012

一般演題

15. ISSで運用可能な改良型人工重力負荷+運動負荷装置の効果

西村 直記1,岩瀬 敏1,田中 邦彦2,間野 忠明2

1愛知医科大学 生理学
2岐阜医療科学大学 放射線技術

Effectiveness of an improved artificial gravity with ergometric exercise device operable on International Space Station

Naoki Nishimura1, Satoshi Iwase1, Kunihiko Tanaka2, Tadaaki Mano2

1Department of Physiology, Aichi Medical University
2Department of Radiological Technology, Gifu University of Medical Science

【目的】 近年,国際宇宙ステーション(ISS)内で長期滞在を行う日本人宇宙飛行士が増加している。このような長期のISS滞在時には,滞在初期にみられる宇宙酔いのみならず,血液循環の調節喪失,筋骨格系の調節障害,感覚運動系遂行能力の変容等(これらを総称して宇宙デコンディショニングと呼ぶ)がみられることが予想され,これらは宇宙船運航中·船外活動中の感覚運動系遂行能力不全などの危険が伴う可能性が生ずる。岩瀬らは,宇宙デコンディショニングを軽減させる為の対抗措置として,短腕式遠心機を用いた人工重力負荷装置に自転車エルゴメータを付置した「人工重力+運動負荷装置」を開発し,模擬微小重力暴露実験時に本装置を用いることで,ほとんどのデコンディショニングが軽減できることを報告してきた。しかしながら,本装置をISSに搭載するためには,更なる小型化が必要となった。今回,これまで用いてきた装置をISS内で運用可能なディメンションに改良し,その効果について検討した。
 【改良型人工重力+運動負荷装置】 従来の装置は半径が2 mであったことから,被験者が人工重力負荷装置内で仰臥位姿勢をとることが可能であったが,改良した人工重力+運動負荷装置は半径が1.4 mであることから,被験者は人工重力負荷装置上に付置したシート上に座る形となった。また,重力負荷の大きさについては,水平方向と垂直方向の合成ベクトルとして算出した。
 【方法】 健康な成人男性を被験者とした。被験者には人工重力負荷装置上で10分間の安静をとらせた後,合成ベクトル方向へ1.2 Gの重力負荷と60 Wの自転車運動(AG+EX)を30分間行わせた。AG+EX中に心電図,血圧(フィナプレス)および胸部と下腿部の体液分布(生体電気インピーダンス法)を連続記録した。またAG+EX中は,ヘッドフォンを介して被験者とコミュニケーションをとった。
 【結果】体液分布の指標となる胸部のインピーダンス値は,AG+EX中に漸増傾向にあったことから,下肢方向への体液シフトが確認された。また,AG+EX G中は,血圧や心拍数の上昇と迷走神経活動(心拍変動HF成分)の低下,交感神経活動(LF/HF比)の亢進が認められた。これらのことから,改良型人工重力+運動負荷装置は,従来の装置と同様の効果が得られることが明らかとなった。しかしながら,従来の装置と比較して @ 重力負荷の強度が不足していること,A 模擬微小重力暴露実験時には姿勢が変わるなどの問題点も明らかとなった。今後,更なる改良を加えて検討を行う予定である。