宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 70, 2012

一般演題

12. 長期宇宙空間保管による宇宙食栄養成分の変化(第2報)

松本 暁子,相羽 達弥,石田 暁,山本 雅文,向井 千秋

宇宙航空研究開発機構 宇宙医学生物学研究室

Changes of Nutrients in Space Food after Long-duration Spaceflight (Vol. 2)

Akiko Matsumoto, Tatsuya Aiba, Satoru Ishida, Masafumi Yamamoto, Chiaki Mukai

Space Biomedical Research Office, Japan Aerospace Exploration Agency

国際宇宙ステーション(ISS)では,日本人宇宙飛行士による長期滞在総日数がロシア·米国に次いで3位となり,これから日本人4人目のISS長期滞在を終え,星出飛行士が帰還するところである。飛行士の健康管理上,長期宇宙滞在中の食事·栄養管理は大変重要である。宇宙食は,常温保管を原則とし,宇宙空間では宇宙放射線等の影響が懸念される為,我々はJAXAが開発した宇宙日本食について,長期宇宙保管による栄養成分への影響に関する研究を実施した。研究用宇宙日本食サンプルとして準備した8種の宇宙日本食をセットにした“Space Food Nutrient Kit”は,2010年4月5日米国ケネデイ宇宙センターからSpace Shuttle Discover(STS-131/19A)にて打ち上げられ,その後ISS日本実験棟 「きぼう」内で保管され,Space Shuttle Endeavour(STS-134/ULF-6)にて2011年6月1日に地球に帰還した。栄養成分の項目は,放射線の影響を受けやすいビタミン類,アミノ酸,脂質酸化物を中心に分析した。宇宙放射線の被曝量に関しては,Space Food Nutrient Kitに同梱したJAXA Bio PADLESにより計測した。今回の研究では,現在のISS長期滞在期間より長い423日のISS保管期間をとることができた。宇宙食の栄養成分に関しては,最大で2割程度の減少が認められたが,主に経時変化による影響と思われ,宇宙環境下での保管という観点について,特に宇宙放射線の影響が大きかったとは考えられなかった。しかし,栄養価の損失や脂質酸化の程度は,脱酸素包装や酸素他成分の存在によって,食品によって若干異なることが示された。全般的には,宇宙日本食中の栄養価の損失はあまり大きくなく,研究に使用した8種の宇宙日本食に関しては,栄養面での安定性·包装の妥当性が検証できた。本研究で得られた成果は,今後,次世代宇宙食を研究開発するに際し,貴重な基礎データとなると考えられた。