宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 69, 2012
一般演題
11. メダカを用いた心電図測定
須藤 正道1,2，寺田 昌弘2，浅香 智美2,3，大平 宇志2，岩﨑 賢一2,4，向井 千秋2
1東京慈恵会医科大学 宇宙航空医学
2宇宙航空研究開発機構
3東京大学大学院 新領域創成科学研究科 動物生殖システム分野
4日本大学 医学部 社会医学系 衛生学分野
Electrocardiogram measurement of medaka
Masamichi Sudoh1,2, Masahiro Terada2, Tomomi Watanabe-Asaka2,3, Takashi Ohira2, Ken-ichi Iwasaki2,4, Chiaki Mukai2
1Division of Aerospace Medicine, The Jikei University School of Medicine
2Japan Aerospace Exploration Agency
3Laboratory of Genome Stability, The University of Tokyo
4Division of Hygiene, Nihon University School of Medicine
【背景】 水棲生物実験装置が軌道上の国際宇宙ステーションに打ち上げられメダカの宇宙実験が促進されている。我々はヒトとメダカの類似点に着目し宇宙環境ストレス，特に自律神経活動が生体へ及ぼす影響を評価するためにメダカを用いた心拍解析を行っている。共同発表者の浅香らは体表が透明なメダカ（Sukesuke, SK2）を用いて心臓の拍動を高速度カメラで記録し，画像解析により心拍変動の解析を行っている。しかし，体表が透明でないメダカにおける心拍変動解析およびSK2を用いた画像解析から求めた心拍変動を検証するために心電図を用いた心拍解析が必要である。小型魚類の心電図測定は体長約4 cmのゼブラフィッシュでの報告はあるが，体長2～3 cmのメダカの心電図を測定した報告はない。本研究ではメダカの心電図を測定する手法を開発し，心拍変動解析が可能なノイズの少ない心電図波形の記録を試みた。
【方法】 電極の位置により心電図波形が異なるかを検討するため，実体顕微鏡下でメダカを仰向けにし，ヒトでの第I誘導（心臓を左右に挟む)，第II誘導（左下と右上)，第III誘導（右下と左上）およびNASA誘導（上下）に相当する箇所にディスポ同心針電極 （日本光電，NM-125C，外径0.30 m）を挿入し心電計（日本光電，AB-601G）を用いて心電図を測定し，A/D変換機（AD Instruments, PowerLab/16sp）を用いてコンピュータに記録した。高速度カメラは300フレーム/秒で記録しているため心電図測定でも測定周波数を合わせようとしたが，PowerLabのサンプリング設定は300/sがないため今回は400/sで記録した。
【結果および考察】 心電図記録の結果，基線にノイズが大きく表れ波形がはっきりしないがR波の記録はできた。R波の波高はNASA誘導が一番高かった。しかし測定を重ねるとNASA誘導が必ずしもR波が高く記録されるわけではなく，どの誘導においても電極の挿入位置の微妙な調整によりR波が高く現われたり，心拍の約2倍で動くエラの筋電図波形が大きく現われたりした。針電極の先端の位置を微妙に調整することによりエラの動き等のノイズの少ない綺麗な心電図を計測することが可能になった。
一方で，直径0.3 mmの針電極は同じ比率にするとヒトにとっては直径2 cmの針電極に相当し，個体に与えるダメージが非常に大きい。今後の課題としては，非侵襲的な測定方法の確立が必要である。