宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 68, 2012

一般演題

10. 低温飼育がメダカの遊泳様式および骨格筋の特性に及ぼす影響

大平 宇志1,浅香 智美1,2,寺田 昌弘1,須藤 正道1,向井 千秋1

1宇宙航空研究開発機構
2東京大学大学院 新領域創成科学研究科

Effects of cold exposure on the swimmimg behavior and the skeletal muscle property of medaka

Takashi Ohira1, Tomomi Watanabe-Asaka1,2, Masahiro Terada1, Masamichi Sudoh1, Chiaki Mukai1

1Japan Aerospace Exploration Agency
2Department of Integrated Biosciences, Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo

環境変化に伴う動物の行動様式の変化と骨格筋特性の変化の関係については不明な点が多い。これは,これまで動物の行動様式を数値化し,その変化について評価可能な手法が確立されていなかったことが原因の一つであると考えられる。そこで,我々は,遊泳中のメダカの映像を高速度カメラで撮影し(300 fps),画像解析ソフトを用いて体躯のうねりを数値化する手法を確立した。そして,この手法を用いて,低温飼育がメダカの遊泳様式および骨格筋の特性に及ぼす影響を追究する実験を行った。
 本実験期間は90日間とし,メダカ(SK2系統)を常温(26°C)飼育群と低温(4°C)飼育群に分けた。低温飼育群の水温は,26°Cから2日に2°Cずつ低下させ,4°Cに達した時点でそれを90日目まで維持した。そして,90日目に両群のメダカがそれぞれの水温下で一定速度で遊泳している際の映像を撮影·解析し,体躯のうねりを比較した。また,凍結横断切片を作製し,血合筋およびそれ以外の筋を構成する筋線維の横断面積も測定した。
 その結果,低温飼育メダカの体躯の曲率は,常温飼育メダカに比べて増加する傾向が確認された。また,うねりの頻度は,低温環境で飼育することにより顕著に減少した。一方,筋線維横断面積には,血合筋およびそれ以外の筋ともに低温飼育群と常温飼育群で差は確認されなかった。以上の結果から,低温飼育に伴うメダカの遊泳様式の変化には,骨格筋の量的変化ではなく,神経系の変化や骨格筋の収縮特性に係る質的変化等が関与している可能性が示唆された。今後は,これらについての解析と伴に,遊泳様式の経時的変化についても解析を進めていく必要がある。
 研究協力者:新堀真希(アリゾナ大学),馬場昭次(お茶の水大学),岩阜ォ一(日本大学),尾田正二(東京大学),山本雅文,大島博,太田敏子(宇宙航空研究開発機構)