宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 65, 2012

一般演題

7. 筋萎縮後の回復に及ぼす微弱電流刺激の影響

大野 善隆1,後藤 勝正2,杉浦 崇夫3,大平 充宣4,吉岡 利忠5

1豊橋創造大学 保健医療学部
2豊橋創造大学大学院 健康科学研究科
3山口大学 教育学部
4大阪大学大学院 医学系研究科
5弘前学院大学

Effects of microcurrent electrical neuromuscular stimulation on atrophied skeletal muscle

Yoshitaka Ohno1, Katsumasa Goto2, Takao Sugiura3, Yoshinobu Ohira4, Toshitada Yoshioka5

1Laboratory of Physiology, School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
2Department of Physiology, Graduate School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
3Department of Exercise and Health Sciences, Yamaguchi University
4Graduate School of Medicine, Osaka University
5Hirosaki Gakuin University

スポーツ現場では損傷部位の治癒を促すために電気刺激の1つである微弱電流(microcurrent electrical neuromuscular stimulation:MENS)刺激が実施されている。我々はこれまでにMENS刺激は損傷骨格筋の再生を促進させることを確認した。このMENSによる損傷骨格筋再生促進効果は,骨格筋特異的組織幹細胞である筋衛星細胞の増殖によるものと考えられている。もし,MENSが筋衛星細胞を増加させるのであれば,MENSは骨格筋量の増加をもたらすことが示唆される。そこで本研究では,実験動物モデルを用いてMENS刺激が萎縮により低下した骨格筋量の回復過程に及ぼす影響を,培養細胞を用いてMENSが培養筋芽細胞の増殖および分化に及ぼす影響を解析し,MENSが骨格筋増量作用を持つか検討した。動物実験には生後10週齢の雄性マウス(C57BL/6J)20匹を用い,ヒラメ筋を対象筋とした。マウスを無作為に,対照群とMENS群の2群に分類した。両群のマウスに対して2週間の後肢懸垂により,ヒラメ筋への荷重を除去した後,通常飼育に戻しヒラメ筋への荷重を再開した。なお,マウスは室温23±1°C,明暗サイクル12時間の環境下で飼育され,後肢懸垂中マウスは自由に餌および水を摂取できるように配慮した。MENS群のマウスには後肢懸垂終了1日後より,麻酔下にてMENS刺激を負荷した(Trio300,伊藤超短波社製)。MENS刺激後,経時的に両群のマウス両後肢よりヒラメ筋を摘出し,即座に結合組織を除去した後,筋湿重量を測定した。筋重量測定後,筋組織をホモジネートし,タンパク量を測定した。本研究における動物実験はすべて豊橋創造大学が定める動物実験規定に基づき,豊橋創造大学生命倫理委員会の承認許可を得て行った。培養細胞実験では,マウス骨格筋由来筋芽細胞(C2C12)を用いた。C2C12を増殖培地にて増殖させた後,分化培地にて培養し筋管細胞に分化させた。細胞増殖期ならびに分化期にMENS刺激を負荷し,刺激負荷24時間後に細胞を回収した。回収した細胞をホモジネートし,タンパク量を測定した。後肢懸垂後の再荷重時にMENS刺激を負荷することで,筋萎縮後の回復(再成長)が促進された。一方,C2C12細胞の分化期にMENS刺激を負荷することで,筋細胞の分化が促進された。しかしながら,MENS刺激はC2C12細胞の増殖に影響を与えなかった。したがって,MENSは骨格筋増量効果を有することが示唆された。また,このMENS刺激による骨格筋増量効果は骨格筋分化の促進によるものであることがあわせて示唆された。本研究の一部は日本学術振興会科学研究費(23800647, 20300218, 22240071, 24650411, 24650407)ならびに日本私立学校振興·共済事業団による学術振興資金を受けて実施された。