宇宙航空環境医学 Vol. 49, No. 4, 61, 2012

一般演題

3. 家庭用プラネタリウム鑑賞中の姿勢の違いによる生理機能の相違

伊藤 康宏1,山普@将生1,加藤 みわ子2,野村 裕子1,高林 彰1

1藤田保健衛生大学大学院 保健学研究科
2愛知淑徳大学 心理学研究学科

Differences of physiological parameters under planetarium and posture conditions

Yasuhiro Ito1, Masao Yamasaki1, Miwako Kato2, Hiroko Nomura1, Akira Takabayashi1

1Department of Physiology and Clinical Pathophysiology, Graduate School of Health Sciences, Fujita Health University
2Faculty of Psychology Studies, Aichi Shukutoku University

【背景】 姿勢·体位の違いが精神·心理に及ぼす影響について感情変化,味覚·嗅覚感受性変化などの生理心理学的感受性の変化,s-IgA,唾液コルチゾールなど生理学的指標の変化について検討してきた。その中で明度,暗度の違い,肉眼視できる程度の輝点や背景照射,音(音楽:back ground music)の有無などが体位に次ぐ因子として浮上してきた。生理心理学的変化をもたらす因子は高次脳機能の影響かあるいはそれより下位の大脳辺縁系,あるいはHPA軸などストレス応答系を介したものなのかを検討することには意義がある。その第一段階として,高次脳機能である音楽鑑賞も含めた体位変化と生理変化を,家庭用プラネタリウムを使用して検討した。
 【目的】 夜空の星を観て美しいと感じるのは高次機能の進化した人間ゆえの感性である。これに音楽を加えた高次機能への刺激はさらにHPA軸などを介して下位の応答を誘導し,呼吸,心拍にも影響を生じさせる。近年,家庭用プラネタリウムの購入者がたいへん多いと言われているため,実際の星とは全く異なる条件の反射光によるプラネタリウムを用い,姿勢の違いを加味した上で生理機能の一部の偏移を検討した。
 【方法】 座位および6° HDTで暗い状態とプラネタリウム投影時での呼吸数,心拍数,皮膚表面血流量およびパワースペクトル解析から得られた高周波成分HFおよび低周波成分LFの変化について検討した。対象者は指定の体位で20分間安静にした後,暗視野でレーザー血流計,心電計,呼吸計を用いてそれぞれの情報を測定した。次いで,家庭用プラネタリウム(HOMESTAR EXTRA Planetarium)で15分間鑑賞した。音楽の効果を調べるときは暗視野+音楽,プラネタリウム+音楽の条件にした。音楽は同一(Enya, Watermark, WPCR-11006)のものを使用した。
 【結果】 自律神経指標とされるLF/HFおよびHF/TFはプラネタリウムと音楽の影響を受けたと考えられる変化を示した。心拍数はプラネタリウム効果があると考えられた。座位では自律神経活動と心拍数のプラネタリウム効果が有意に生じ,HDTでは心拍数で有意な差を生じた。これらの値の変化率を座位とHDTとで比較すると,HDTでの変化率が大きかった。
 【考察】 家庭用プラネタリウムを鑑賞したときの生理機能は変化を認めた。また,音楽の影響も認められた。これらの結果は,高次脳機能がおそらく自律神経系を介して影響することを示すと考えられるが部分的な証拠にしかならない。他の要因として環境の明度が低いため,中枢神経系の伝達物質の分泌変化に影響を受けているのかもしれない。HDTの変化率がむしろ大きかったことから,概日リズム因子や他の液性因子の影響の検討も必要と考えられる。