宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 121, 2011

宇宙航空医学認定医セミナー

「東日本大震災における航空医療の展開」

5. 医療帰省の現況─民間航空会社の支援─

五味 秀穂

全日本空輸株式会社 運航本部 グループ運営推進室

Remote medicine and support of civil aviation in Tohoku disaster

Hideho Gomi

Flight Crew medical Administration, Tokyo Office, All Nippon Airways Co.,LTD.

東日本大震災において,公共交通機関としての民間航空会社が行った支援策について報告する。当社が行った主な支援活動は下記の5件である。
 1) 事業を通じた取り組み
 ·臨時便の設定(福島·山形·仙台)
 ·救援物資や医療·救出支援者の無償での渡航協力
 ·払い戻し·変更手数料の免除
 2) 側面からの取り組み
 ·義援マイル·義援金
 ·物資提供
 今回の大震災においては関東北部から東北地方が大きな被害を被り,仙台空港がご承知の通り津波で使用不能となった。しかし被災地への物資及び支援者輸送を民間航空でいかに担うかとの命題に対し,通常は運航してない福島空港及び山形空港に臨時便を開設運航し,また他の東北地方の空港にも臨時便(秋田空港へのシャトル便など)を設定した。仙台空港が米軍の支援で再開された後には,定期便の再開まで羽田との臨時便を運航した。仙台空港再開には米軍の多大なる支援があり,7月25日より定期路線も再開された。
 これらの臨時便や他の東北地方の空港への定期便において,救援物資の無償での輸送協力と,医療·救出支援者の無償での渡航協力を行った。3月末の時点において全国約80路線を使い,救援物資は約16 tを輸送,医療支援者·救出支援者は約5,500席を越えるものとなった。これらの無償輸送は日本政府ならびに地方自治体からの要請に応じたもので,多くの医療関係者にも利用して頂いた。
 側面的支援としては,予約していたフライトの変更·中止を余儀なくされた場合の手数料減免や,義援マイル·義援金の呼びかけも行った。義援マイルは手持ちのマイルを寄付して頂くものだが,3月末の時点で2億6千万マイル(2億6千万円相当)の寄付があった。
 今回の大震災での医療支援として,血液透析患者に対する透析支援も大きな問題であった。東北の太平洋側4県には約1万2千名の透析患者さんがおり,東京·大阪·北海道など全国各地に移動して頂き,透析医療の支援が行われた。関東では東京女子医大が中心となって大学病院や関連施設に患者さんを振り分け,また日本透析医会の災害情報ネットワークによる透析可能病院の情報提供も機能した。東北地方の透析可能病院では,当初透析時間の短縮(2-3時間/回)などでしのいだが,避難施設や長距離の移動の際などに亡くなられた方もおられた。ライフラインを絶たれた際の透析医療支援体制の構築に,礎となる経験が得られた。