宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 119, 2011

宇宙航空医学認定医セミナー

「東日本大震災における航空医療の展開」

3. 輸送ヘリコプター(CH-47JA)による陸上自衛隊の航空患者後送

後藤 浩也

陸上自衛隊 開発実験団部隊 医学実験隊

Medical evacuation with CH-47JA by Japan Ground Self Defense Force

Hiroya Goto

Military Medicine Research Unit, Test and Evaluation Command, Japan Ground Self Defense Force

空港と医療機関が整備されていない国外での国際平和協力活動や,東日本大震災のような大規模広域災害では,空港以外からでも発着でき,整備された医療施設までの長距離の飛行と,搬送中の急変への対処も可能な航空後送能力が必要となる。陸上自衛隊のCH-47JA(通称:チヌーク)は比較的広い機内空間を持つため,限定的ではあるが機内での医療行為が可能であり,また非常時には医療機器に機内の電源を提供することもできるため,重症患者の中長距離の航空後送に適すると考えられる。しかし,これまでは搭載する医療器材が限定的であったため,十分に活用されていなかった。
 陸上自衛隊は,平成22年度にCH-47JAでの重症患者対応の航空後送器材の改良を実施した。焦点としたのは,ヘリと医療機器相互の電磁干渉性と,機内での医療スタッフの活動性であった。
 防衛省技術研究本部の協力による電波暗室における電磁波測定と,実機を用いた検証により,ヘリと医療機器相互で電磁干渉に問題が無いことを確認した。また,振動対策パレットと航空機用ヘッドセット等により,機内の振動騒音環境を克服して医療活動ができることも確認した。
 平成23年3月の東日本大震災では,人工呼吸器管理を含む2例の重症患者を被災地域の総合病院(仙台市)から自衛隊中央病院(東京都世田谷区)に搬送した。機内では,機内環境の変化に伴う患者の生理的な変化を持続的に監視して必要な処置を実施することができ,航空後送器材が実用に耐えうることを実証した。
 災害派遣や省庁間協力等の諸手続きと,離発着には一定の地積が必要であるが,大規模広域災害等における重症患者の中長距離の航空後送に,陸上自衛隊のCH47JAの活躍が期待できる。